鶴巻 武則 様(新潟県・新潟市)

今年3月、『北越雪譜を科学する』を上梓された鶴巻武則様にお話をお聞きしました。
本書は鈴木牧之の『北越雪譜』をベースに、積雪量や結氷、雪崩や吹雪といった雪害など、雪に関する事象やそれに付随する雪虫や雪具になどについて検証した一書です。

 

▲4月26日 弥彦の八重桜とともに

 

Q.まずは『北越雪譜を科学する』をまとめようと思った経緯から
40年間、司書として図書館に勤務。
新潟県民俗学会という民俗の研究団体に所属し、ながらくその機関誌『高志路(こしじ)』の編集をしていました。
しかし、どうもガンができやすい体質らしく、今までに4回発症し胃や右腎臓を全摘、左腎臓の患部を照射するなどの手術を受けてきました。
2019年には5度目のガンが見つかり、精密検査の結果膵臓ガンとわかり膵臓を半分取ることに。
膵臓ガン術後5年の生存率は20%と低く、先の予測も立たないため『高志路』の編集を辞し、手術に備えることにしました。

 

Q.手術に備えるのに、なぜ執筆を?
腎臓機能が通常の1/3しかないため、施術にはギリギリの状況で、なおかつ術後は腎臓の人工透析になる可能性も残るとの医師の言葉。
2020年1月初めに手術を行い、一か月の入院生活の後、透析の必要もなく無事退院に。
しかし、途端に新型コロナ騒動。外出もままならず、今までの成果を本にすることにしました。

 

Q.そこからは旺盛な執筆活動を?
『高志路』におりおり発表していた江戸時代の越後に関係した論考に、いくつかの追加原稿を加えた『越後の和本』を2、3月の2か月でまとめました(2020年9月刊行)。
それに続いて、過去4年間の『高志路』に掲載した文を中心に、今回の『『北越雪譜』を科学する』を一冊にする作業を始めました。

 

Q.もともとはどうして当社にお声がけを?
以前、妻が所属する俳句サークルに、木戸さんが句集作成の勧誘に来られたことがあったとのこと。
妻の話から「喜怒哀楽書房」という珍しい名前の出版社があることを知り、経費が安いことにも驚かされました。
しばらくして『高志路』を依頼していた印刷所が廃業、新たな業者を選定する必要が生じその際、数社から見積もりをとったその一つが喜怒哀楽書房でした。
その時は、入稿はデジタルが基本、入力は別途料金ということで、残念ながら他の業者に頼むことにしました。

 

Q.そうでしたね、あの時はコロナもなくご自宅に伺いました
さて『越後の和本』をどの業者にするか逡巡の末、「そうだ、あの時の喜怒哀楽書房にお願いしよう」と。
短詩集を得意とされているとのことで不安もありましたが、過去には数は多くないものの専門書の出版もあり、おまかせした次第です。
『越後の和本』は2020年に上梓しましたが、装丁もシンプルで予想以上の本が完成しました。

 

Q.まとめる際にこだわった点はありますか?
『北越雪譜』は江戸時代後期、越後塩沢(現南魚沼市)に住む鈴木牧之が、雪に関係する民俗を中心にまとめた初編3冊、二編4冊の本で、雪というものをよく知らない江戸や、南方の人達に驚かれ、歓迎された本です。
これに関係してどうして日本海側に雪が降るのか、雪の結晶の形はどんなものか、といった題材を取り上げました。少しアルファベットも出てくるので、『越後の和本』とは違って横書きとすることに。
また『北越雪譜』の原文をそのまま掲載すると読みづらいので、私が現代文に訳したものを載せることとしました。
『北越雪譜』を民俗学や文学の視点から読む人がほとんどのなか、どうしたら科学的な内容として読んでもらえるか、悩んだ末、題名に「科学する」と入れました。
私自身、こうした「〇〇する」という言い方は好きではないのですが、他に名案はなく致し方なくですね(笑)。
表紙カバーに、このような厚手のトレーシングペーパーを用いて表紙の文字を透けさせるというアイデアは喜怒哀楽書房さんの提案ですが、表紙・裏表紙に雪の結晶図を選んだのは、私のこだわりです。

 

Q.喜怒哀楽書房への質問
逆に、普段は句集など短詩系の出版をされているなか、このような文章中心で図版が多く、かつ横組・表などがある本は大変ではなかったか、お聞きしたいです。
校正もだいぶ詳しくやっていただきましたし、句集などとは違い、苦労されたということはなかったですか。こんな内容で、読むのがいやになるとか(笑)。

 

横組・表などは時々あるので、すごく大変ということはありません。ただ、文章の訂正(加筆、削除)があると、文章に即したところに入れていた図版も移動せざるを得ないため、その後もずれて、調整に手こずるということはありました。校正に関しては、担当した者が国文科卒の、地元が新潟の豪雪地出身だったため興味深かったようで、校正はおろか時には校閲にまで及んでいましたね。
書棚に並んでいた本書を見た(株)木戸製本所の常務は、借りて読んだらしく「雪国の生活様式がなぜそうなのかという必然性や、どうして雪崩が起きるのかなど、数値や図で具体的に示されているのでよく理解できたし、興味深く読んだ」と感想を述べていました。
 

Q.どのような反響がありましたか
まず、最初に装丁のことを誉めていただきました(笑)。
あとは『北越雪譜』の原文を現代文になおし読みやすくしたこと、最後に載せたカンジキの項で話を海外との関連にまで展開させたことなどが、評価をいただいたようです。
『北越雪譜』を読んでいた何人かからは「こうした見方があったのかと驚いた」、との感想をいただきました。まさにここが狙いでもあったわけです。

 

Q.近況
楽しみは孫の成長。娘2人は共に県外で所帯を持っており、それぞれ子供が2人、計4人の孫は上も下も同い年。
2019年の年越しに、手術前だった私のところに初めて2組いっぺんに来てくれたのですが、それ以来1年半近く会えていません。
上の子たちがこの春小学校に入学しましたが、その姿を見ることができないのは残念でなりません。
現在、秋にもう一冊上梓する予定で、近代における飢饉の際の救荒書を執筆中です。こちらは今までの2冊と違い、全編書下ろしのため苦戦中。
もう一つ、苦戦しているのがスマホ。妻のスマホが壊れ新しいものを買いに行くと、今ならスマホに変更1円! というキャンペーンがあり半強制的にガラケーからスマホに。スマホに遊ばれながら、四苦八苦中です。

 

▲弥彦神社にある津軽石。願い事をしたあと、この石を持ち上げることができたらそれが叶うという言い伝えがあるとか。「孫たちが無事に過ごせるように、特に上の子たちが小学校に馴染めるように」と祈り、かろうじて持ち上げたそうです。

 

『北越雪譜』を科学する』をご希望の方は
nimigat@yahoo.co.jp 鶴巻様まで
1,000円(送料とも)