2015年2月『名刹広徳寺のお犬騒動記』を出版した著者の樋浦知子さまにお話をお聞きしました。また本書の主人公、柴犬「黙念クン」の里親、本田智惠子さんにもご同席いただきました。
【Q】 なぜ、この本をまとめようと?
世の中には、飼い主に見放され不幸な最期を遂げる多くの犬がいます。ファッションの一部、またはおもちゃ代わりに飼われ、飽きれば人間のエゴでポイ。そんな昨今の風潮に疑問を感じて、動物愛護の一助になればと本書をまとめました。もともと書くことは好きで、以前に『捨て犬フラワーの奇跡』という本も出版しました。ただ、動物愛護の本は悲しい内容が多く「かわいそうで読めない」という声を少なからず耳にします。手に取ってもらえなければ声は届かないので、明るく楽しく動物愛護を訴えたいと思っていました。
【Q】 広徳寺とのお付き合いは?
12年ほど前でしょうか。当時住んでいた練馬区桜台周辺を愛犬と散歩し、広徳寺脇の道を通りかかったときです。お寺の敷地内を歩く和尚様と柴犬が目にとまり、軽く会釈をしました。何度か和尚様と言葉を交わすうち、親しくさせていただくようになりました。その柴犬「黙念クン」が、お寺にきて4年ほど経ったある日、突然行方不明になりました。大変落胆された和尚様に、尋ね犬のポスターを貼ることをお勧めし、警察や清掃局、動物愛護センター等、関係諸機関と連絡をとり、打てる手はすべて打ちました。
【Q】 その時の顛末を本に?
無事発見されるまでの8日間、実に多くの方々が様々な場面でわが事のように力を尽くされていました。和尚様と黙念クンの絆はもとより、捜索にあたった周囲の方々の温かい情を描くことで動物愛護につなげたいと思い、和尚様に申しあげたところ「いいですよ、好きに書いてください」とおっしゃっていただきました。
【Q】 動物愛護に熱心でいらっしゃるのは?
小学4年生のとき、いつものように父と愛犬ムクと散歩をしているとムクの首輪が抜け、一目散に走り出しました。追いかけていったその先にいたのは野犬狩りの男性たち。「キャイーン」と叫んだムクが宙に舞い、細い針金で首を絞められていました。父親が頭を下げ、引き取ったムクを抱き上げたその時、車の荷台の檻に入れられた一匹の野犬が絶望と羨望のまなざしで私たちを見ていました。理不尽に絶たれる命。どうすることもできなかったあの時のことが原体験となっています。
【Q】 その想いがベースにあるのですね
想いはあるものの、それからは書いたり消したりの連続。ただ、多くの時間を費やしましたので「途中で投げ出さず、いつか必ず形にしたい!」という気持ちだけは持ち続けていました。書き始めて10年、あのタイミングで夫の中学時代の恩師高橋卓二先生の勧めで喜怒哀楽書房さんと出会えたのは幸運でした。心優しき皆さまの誠心誠意のお仕事ぶりと、抜群のチームワーク。そして母体である木戸製本所さんの技術で、まさに「抱きしめたくなる本」、希望以上の本に仕上げてくださいました。住まいは東京都国分寺市ですが、通信技術が進んだ現在では、新潟との距離を感じることなくスムーズに進みました。
【Q】 本を出されてからは?
たくさんのありがたい感想をいただきました。また、この本の執筆中、黙念クンの里親、本田さんと出会いました。本田さんは、私をご自身の運転で新潟まで連れて行ってくださったり、ご親戚のいらっしゃる伊勢まで往復されたりと、82歳とは思えないバイタリティーの持ち主で社交家。本のおかげで本田さんと知己を得、新たな楽しみが広がりました。漠然と本を出したいとお思いの方は、ぜひ喜怒哀楽書房さんへご一報されてください。そこから素敵な道がひろがります。私も心から感謝しています。
★日本海に面した新潟の寺泊で育った樋浦さん。子どもの頃は毎日海で泳ぎ、夕飯時には父親の求めに応じ、潜ってタコを捕っていたとか。朝、昼、晩、愛犬の散歩を欠かさず、大学卒業以来、ほぼ毎日水泳教室で指導にあたっている。動物の置かれている悲惨な実態に憤るのは、計り知れない愛情があるから。何度お会いしても全くの自然体で誠心誠意、限りなく誠実でいらっしゃる。10年の歳月をかけてこの本をまとめ上げた根気は、新潟女のしんなら強さだと思いたい。 (木戸敦子)