本年三月、ご自身の来し方と俳句をまとめた自分史『日々是好日』を上梓した九五歳の金澤アイさんとお孫さんの古賀彩さんにお話をお聞きしました。
Q この本を出されようと思った経緯は?
アイ…書くことは好きなので日記に書ききれないことなど、ノートに書いていた。彩が「おばあちゃん自身のことも書いてみたら?」と薦めてくれたが、自分のことを書こうとは思わなかったので受け流していた。でも時々「小さいときこんなことがあったわ」と思い出しながら話すと、彩は「それでいい、それでいい!」って。ほんと乗せ上手で、その調子で書いていたらこんなことに(笑)。
彩…幼少期の話は全く知らない時代の話で、写真を見てもまさに異世界。おばあちゃんにとっても母や私たち孫にとっても、これは残しておいた方がいいんじゃないかと思って。そんな時、ネットで調べて御社に問い合わせたら、木戸さんが自宅に来てくださった。
アイ…書き始めたらその気になって、デイサービスの先生にも「私自叙伝書いているんです」って伝えたら、行くたびに「もう書いたか」と聞かれるので「そんなに早くできるわけないですよ」って。でも「できたらもってこい」って何度も(笑)。
Q 本が完成した時は?
アイ…それはうれしかったです!「これが私の本」と思って。誤字もあって校正も大変だったろうに、私の書いたことをこんなふうに本にしてくれるんだと感激した。贈呈した友人たちは、書くだけでえらい! と電話をくれたり、まだこんなこともあったよと話を聞かせてくださる方もいたり、写真に写っている方からは喜んでいただいたり。
彩…写真の選別が大変で、ちょっと欲張りすぎたかなと反省。表紙のデザインはコスモスを入れてこんな感じにしたいというおばあちゃんのリクエストがあった。題字も自分で書いて。題字と見返し(表紙の裏に貼り本文とつなぐ紙)をピンク色で提案していただき気に入っている。
Q 日頃はどんな毎日を?
アイ…朝四時五〇分頃からラジオ深夜便の「誕生日の花」を聞いて一日が始まる。今は娘夫婦と同居しているので、朝食までに支度をしてお化粧をして、午後は日記を書いたり、韓国ドラマを見たり、ちょっと散歩をしたり、新聞や本を読んだり。本は大好きで、今のところ細かい文字も大丈夫。今読んでいる本も「おばあちゃん読んだらいいよ」って彩がくれたんです。壁にかかっている千羽鶴も「おもしろい折り紙があったよ」と、家族みんなが国旗柄や花柄の折り紙を持ってきてくれるから折るのが追い付かず「もうよして」と(笑)。
彩…数独も叔父さんがインターネットからどっさり印刷してくれたから、毎日やっている(笑)。すごいなって思う。
Q 皆さんが元気の源ですね
アイ…動けるうちは動いていたい。病人らしくしてたんじゃ病人になっちゃう。母も亡くなるまできちんと着物を着ていた人だから、それが当たり前に思う。若い頃は歌舞伎やお芝居も好きだったし、勉強会で源氏物語も全巻読んだり、いろんな講座も受講した。でも今は今日も起きられた、ご飯を食べられた、自然に生きていることで十分。子や孫たちみんなが元気ならそれでいい。自分が弱くなればなるほど人のことが心配。挑戦しようとか、勝とうとかは全くない。強いて言えば生きているだけが挑戦かも。最後はバタンといけば一番簡単でいいし、そうありたい、いえそうなります!(笑)
★普通はもう行かなくなる八四歳から家族旅行をスタートし、ハワイではダイヤモンドヘッドにも登頂し、以来家族と国内外を旅行するアイさん。二年前のハワイ旅行では家族五人に、九三歳の誕生日を祝ってもらった。いとまごいをしようとすると、ちょうどアイさん宛てにお友達からお電話が。小走りで受話器に駆け寄り、スリッパを脱いで畳の部屋で「もしもーし、お元気?」の明るい声。誰に対しても垣根なく、喋っていると穏やかな気持ちになるアイさんは、みんなの自慢のおばあちゃん。「なんでも大勢が好き」というアイさんの周りには、気にかけてくれる大勢の人がいる。(木戸敦子)