童子 浅川句会
副主宰 安部元気様
(東京都・八王子市)
1月18日、八王子いちょうホールで行われた「童子」浅川句会の初句会にお邪魔しました。2011年10月、八王子市民向け「一からはじめる俳句講座」として初心者を対象に始められた当会は、昨年1月に童子の40番目の「浅川句会」として新たにスタート。
「こんにちはー」と元気に登場されたのは、指導にあたる「童子」の安部元気副主宰。本日は、当季雑詠5句出句の7句選。ご夫婦も二組いらっしゃる模様です。
門松を取りて玄関広くなり えみ
元気/そのとおりだけれど、当たり前過ぎるな(笑)。雨が降ったから傘を持った、と原因と結果の両方は言わないのが俳句。正月明けの玄関が広々としている、というだけで十分成り立ちます。ああなってこうなってでは、俳句はつまらない。
空をけり空をささへて梯子乗 りょう
元気/大きな景を詠んでいていいけれど、「空をささへて」が下で梯子を支えている人なのか、上で見えを切っている人なのかわかりにくいな。ああも読めるこうも読めるという俳句は焦点がぼけちゃってもったいない。
賽銭を大きく投げて初詣 妙
元気/悪くはないけど、「賽銭」と「初詣」の句は、賽銭が耳元をかすめたとか、帽子の上に落ちたとか、まあさまざまに詠まれていて、よほど具体的に写生しないと新味がないです。「大きく投げて」も、高々と投げたのか、振りかぶり方が大きかったのか、遠くから投げたのか、次々に疑問がでてきてしまう。
タロー/「万札で飛行機作り初詣」なら新しい? 紙飛行機だから一回りして戻ってきたりして(笑)。
元気/ハハハ、それじゃ面白すぎて嘘っぽいよ。
病み上り紅少し指す女正月 里音
タロー/ほのかな色気を感じていただきました。
元気/欲をいえば女正月はつきすぎ。別の季語にしたいな。女正月だから少しおしゃれしました、と説明っぽくなってしまうから。
雪催ひポップコーンの店に列 さゆり
元気/「雪催ひ」は今にも雪が降りそうな天気のこと。それとポップコーンの店の行列とは、直接には何の関係もない。雪催ひだからポップコーンを買います、という因果関係はない、つまり離れているところがいい。あとは作者が頭の中に情景を思い描いて、どういう状況かを読み解くことができる、俳句が限られた言葉で大きな情景が描けるのは、この「断絶」があるからなんです。
タロー/甘酒の店じゃいけませんか?
元気/うーん、団子や甘酒など温かいものをもってくると、「雪が来る寒さだから」となっちゃうな。
駅伝の寒中稽古続きけり 二水
元気/「続きけり」は昨日も今日も、というような意味でしょうが、俳句は一瞬の情景を切り取るのが得意な、いわばカメラです。時間の経過を伝えるビデオのような句もないわけじゃないが、あまりうまくいかない。今日も駅伝の寒稽古でいい。
天井の梁幾重にも冬の蔵 さゆり
元気/すすけた太い梁が幾重にも通った田舎の豪壮な建物…という情景がパッと浮かぶ。もったいないのは「冬の蔵」。「秋の蔵」「春の蔵」と季語を変えても成り立ってしまうこと。例えば「雪深し」とかしたらどうかな。
早梅や旅の誘ひのメールくる ゆり
元気/「メールくる」が今風でいい。カタカナの俳句は必ずしもいいとは思わないが、これは現実感があります。
つかの間の轍の跡の薄氷 りょう
元気/「薄氷」は春の季語で、季節としてはまだちょっと早いな。「つかの間」は、すぐ溶けてしまうという意味でしょうが、「の」だと「轍」「薄氷」のどちらのことかわかりにくい。「つかの間や」とすれば、氷のことになる。
冬桜一本の木に足を止め 妙
元気/取り立てて意味のないさりげない句。誰も採っていませんが、こういう句が作れるようになると、俳句に幅が出てきます。ただし「冬桜」「一本の木」は「木」としてダブっているから〈一本の冬の桜や足止めて〉とかにしては。
一臼は伸し一臼を丸餅に 泰丞
元気/今日はこれが特選! 季語は「餅つき」で年末。餅つきの句としては珍しい。リフレインも効いていますが、「一臼は伸し一臼は」と助詞を揃えた方が、いっそうリフレインの効果が出ます。
丸ごとの鱶鰭も出て小正月 タロー
元気/「丸ごと」はやや大雑把ですが、が一匹分まるまる出たというのは、お正月らしくていい。
さゆり(タロー様奥様)/一匹といっても、掌ぐらいでしたけど(笑)。
タロー/想像は自由、俳句はそこが面白いんですよ。
生真面目に破魔矢を選ぶ手の動き 妙
元気/慎重に選んでいるのでしょうが、手がどう動いているのかわからない。「生真面目に」で顔つきや態度まで想像できるから、そこだけ言えばいい。
妙/下五がうまくおさまらなくて。
元気/新しいことを付け加えるのは大変だから、例えば〈生真面目に今年の破魔矢選びけり〉とか、いまある部分を膨らませればいいですよ。
他 入選句
風花やさざ波に揺る富士の影 長月
新年に皆揃ひたる二十人 みち
構内に飲むコーヒーや冬深し かつら
★時折り「ずいぶん俳句らしくなってきたね」等の誉め言葉も交えながら、してはいけないことをしっかりと伝え、俳句の奥深さと魅力を論理的にわかりやすい言葉で伝える元気さん。ほーっ!と、思わず聞きほれる場面もしばしば。周りを固めるのはムードメーカーのタローさんと奥様のさゆりさん、にこにことそこにいらっしゃる二水さんらの同人メンバー。うまくなってほしいという熱意と指導力、それを温かく見守る複数の眼。俳句を始めるにうってつけの幸せな会だと感じずにはいられませんでした。 (木戸敦子)