円座 むさしの句会

円座
むさしの句会
(東京都・国分寺市)
名古屋を拠点に創刊3年が経つ『円座』。東京は国分寺市にある中川肇さんの「或るギャラリー」において、毎月一回「円座むさしの支部」の句会が開かれている。11月4日は年に一回、武藤紀子主宰がお見えになるということ、そして「木戸さん、終わってからお酒やご馳走があるから!」の言葉に魅かれ、いそいそとお邪魔してまいりました。
 
様々な本や自作のポストカードが所狭しと並ぶここは、まさにギャラリー。ご近所の方や、退院間もない方、武藤主宰目当てで遠く岐阜から遠征して来られる方など、実に様々。
本日は11人の出席で、兼題「山茶花」「鹿」「どぶろく」の3句出句で5句選、うち1句を特選として選びます。
選句・披講が終わると、各人が特選に選んだ句に限らず感じたことを講評します。
 
武蔵野の草風呂ぬくしにごりざけ    多惠
よくわからなかったが「にごりざけ」と「草風呂」が離れていておもしろいと感じた。薬草風呂のことかな?
多惠…かつて武蔵野台地では、朝に草を刈ってそれを小屋に積んでおくと、朝露の湿気が暖まりその草をお風呂代わりにした。その風習を詠んだ。
中川…サウナみたいだね。それで草が暖まってぬくしなんだ。
武藤…京都の西北、柚子の里の草風呂だと思った。「ぬくし」と「にごり酒」は同じゆるゆるとした感じがするので、季語としてどうか。季語を合わせるときはシビアに合わせる。同様のテイストで合わせると軽くなるが、「武蔵野」が効いていて入選に。
 
山茶花や二つ並べて干さるる傘     康子
武藤…「や」でもいいが、これは、山茶花に二つ並べて干さるる傘、としたうえで採りたい。「山茶花や」と大きく切ると、皆さんいいように思うかもしれない。でもこの場合「や」とすると山茶花が画面全体に出て、少し離れたところに傘が並んでいるというイメージ。それでもいいが、そうすると山茶花の垣根が見えてきて、広がった山茶花に二つ傘が干してあってもいいとは思えない。面ではなく、大きな一本の山茶花に赤い傘が並んで干してあったら絵画的にとてもいい。採る人の好みだが、俳句は読む側のもの。選者は読む側であり、私の好みで採らせていただいた。

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前日から東京入りし、お好きな歌(カラオケ)と麻雀を堪能した武藤主宰

 
近況は聞かず終ひや濁り酒            和子
濁り酒を飲むのに夢中になって、近況も聞かないで終ってしまったというおもしろさ/相手を気遣って聞かない場合と、楽しくてうっかり聞き忘れたという場合と、いろいろ想像できる。
武藤…気を遣って聞かないほうだと思う。言いたいことを読み手任せにしているところが少し物足りない。
 
山茶花はひそか指先冷ゆる頃        多惠
武藤…寒さの微妙な感じが出ている、しゃれたすてきな句。「ひそか」という言葉自体は、「ひそか」ほらいいいでしょ、という気持ちがほの見えて俳句には向かない言葉だが、この場合は許せる。なぜか。指先冷ゆる頃の、かすかな寒さを味わうためには「ひそか」の微妙な味わいでいい。
 
宅急便源爺からの今年米               良江
武藤…源爺がかわいい。でもなんでわざわざ「宅急便」を入れるの。クロネコヤマトの顔が浮かぶじゃない(笑)。「源爺からの今年米」で十分で、そこを浮き立たせるような何でもない言葉を入れる、それが俳句、腕の見せ所でしょう。
 
山茶花や予後軽やかに始まれり       道夫
病を得、大変だったと思うが、ようやく歩くことができたという、その喜びが「軽やかに」に載ってよくわかる。
 
◎主宰特選3句
まつ先に父の山茶花咲きにけり       もも子
亡くなった父親が愛でていた山茶花が真っ先に咲いたという句。
武藤…この父親はたぶんもういなくて、その父が大切にしていた山茶花が、この冬一番に咲いたということ。句として無駄なものがなくすっきりして美しく、気持ちがしっかり入っている。素直なすっとした気持ちが詩形に現れている。ただ、贅沢をいえばわかりやす過ぎる。
 
かたはらに形見の句帳濁り酒           もも子
武藤…夫とか割と近い人、その形見の句帳を見ながら一人濁り酒を飲んでいる。何も言わず、ただ飲んでいる。そこにぽつんと置かれた句帳。言葉を尽くしてあれこれ言ってみたり、奇をてらって破調にしてみたりもするが、こういう句をみると究極は五・七・五だなということがよくわかる。単純に誰もがわかり、しかも形が整っているものには勝てない。何でもそうだが、その世界の基本は本当に大切だということ。すばらしい句。
 
どこにでも座りどこでも濁り酒     誠一
武藤…前の2つに比べればわかりにくい句。濁り酒を飲むときは、ちゃんとした椅子に座って飲む必要もない。草っ原でも、ベンチでもどこでもいい、その自由さが濁り酒にはある。2つのどこでもは、同じではなく、後の方はめでたい席でも、お祭りでも、どんな場面にあっても濁り酒は似合うという、複雑なことを上手く言っている。
 
武藤…みんな特選に採られると「ありがとうございます、先生だけがわかってくれて」と、大変喜ぶが、肝心なのはたくさん点が入ったのに先生が採らなかった場合。なぜ採らなかったのかを考えないと。点がたくさん入ったから良い句なのではない。そんなことで喜んでいたら大間違い。
中川…それにしても、今日和子さんすごく点が入ったねー。
和子…だから先生が今、言われたじゃないですか、点の数は関係ないって(笑)。
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↕ 静から動へ、同じテーブルが一瞬で様変わり

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★その後は手慣れたもので、食器とお猪口、そして各人持ち寄りのお手製のおかずの数々が手際よく並べられる。本日の兼題「濁り酒」をはじめ、酌めども尽きぬお酒と俳句談義に、ギャラリー内はまさに「山笑う」の様相。楽しくて好きで探究していることを仲間とともに学び合い、時にご指導いただき、目いっぱい学び、お腹いっぱい食べ、胸はいっぱい大満足。終わってしまうのが惜しいほど、五感で満喫した楽しい時間でした。(木戸敦子)
 
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飲みながらの俳句談義、至福の時間です