方代の里 なかみち短歌大会(山梨県・甲府市)

方代の里 なかみち短歌大会
(山梨県・甲府市)
  山梨県・甲府市出身の望郷の歌人、山崎方代の功績を讃え創設された「方代の里  なかみち短歌大会」の表彰式典が、3月16日、甲府市健康の杜センターにおいて行われました。12回を数える今回は、延べ4122首の作品が寄せられる盛況ぶり。どのような会なのか、お邪魔してまいりました。
 
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主催の甲府市教育委員会教育長、来賓の、方代の常設コーナーのある山梨県文学館学芸課長のご挨拶、選者紹介に続き、各賞の発表にうつります。

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▲歯切れの良い解説の三枝浩樹様
「沃野」の代表 山梨県歌人教会会長

 
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▲美しい着物姿の今野寿美様
「りとむ」編集人。昭和54年『午後の章』50首で第25回角川短歌賞受賞

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▲鎌倉市「瑞泉寺」住職の大下一真様
生前の方代と親しみ機関紙「方代研究」を編集

◎大会大賞
 文部科学大臣賞 一般の部
新しいワンピース以上の幸せが怖かっただけ恋をしただけ       京都府・上村美翔
今野…新調したワンピース以上の幸せとして恐れを抱かせたのは、きっと初めてに近い恋。恋をうまく言い得ている。説明を避け「だけ」で語尾を揃え、ぽんぽんと気持ちを示す軽快なリズムがいい。ナイーブな気持ちを率直に表現した歌だが、表現上の技巧も新鮮で、このような歌が方代の短歌大会に選ばれてうれしい。
 
◎文部科学大臣賞 ジュニアの部
いえぬ傷夏が来る度考える原爆の無い明日がくるのを
山梨県立甲府第一高等学校  依田圭乃子
◎山梨県知事賞
紫陽花の毬にも見える脳を持ち人は諍い地球を壊す               東京都・野村信廣
◎山梨県教育委員長賞
弓を引きほほに当たる矢つめたくて一点集中矢を放つまで
 笛吹市立石和中学校  寺本有希
◎甲府市長賞
ブランコの下の小さな闇ゆらし少女はひとり夕空仰ぐ              東京都・森田小夜子
三枝…詩的な感性で抒情性豊かに、少女の内面に分け入るように詠んでいる。小さな闇が存在しその闇が揺れることを発見した、この把握が見事。
◎甲府市教育長賞
きれいだな夕やけにそまるぼくの町しょうじ湖線からながめて帰る
 甲府市立中道南小学校  眞島伶於
◎特選 大下一真選
台風や地震のたんび思うだが身勝手だけどここはまほろば       山梨県・名取 稔
災害が起こると、そこに住むことを不条理に思うこともある。でもここが自分の故郷、原点であると。「思うだが」の方言に味があっていい。
浮気など人がこそこそしてる間を自販機辻で徹夜している       山梨県・渡辺久男
会いにいく女性がいて、行きも帰りも徹夜で見張られているというおもしろさ。経験がないのでわからないが(笑)、自販機にご苦労さんという気持ちもある。
◎特選 今野寿美選
はつ夏の大河豊かにたゆたひて川鵜の嘴に獲物光りぬ              愛知県・谷口壽々榮
大河のゆったり感と、魚をとらえた瞬間の際やかさが格好のコントラストで表現され、描き方に隠れた技がある。
ひまわりの花咲く畑の迷路より日傘の人のふいに出で来る       山梨県・廣瀬博美
日傘の人がふっと出てきた、ただそれだけのことでも十分に一首を充たす光景となる。一瞬気をひいたということがよくわかる印象的な描き方。
◎特選 三枝浩樹選
忘れいし身の丈ほどの幸いを教えられたる方代の歌               神奈川県・藤井房子
いつの間にか身の丈以上の生活をしていた。そういうことを忘れていたという気付きから、方代の歌にスポットライトをあてている。
コバルトが口説き始めたセルリアン二人で海や空を描こう       青森県・佐々木優
コバルトブルーとセルリアンブルーのことで、色はいずれも濃いブルー。硬質のコバルトと優しい響きのセルリアンを、男女の比喩として使ったところが秀逸な恋歌。
 
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▲親子連れも多く会場は定員一杯

 
★遠く北岳を望み、桃と鍬跡の残る畑が広がる早春の甲府盆地。市の職員や方代会のメンバーがあちこちと準備に回り、お昼には三角巾と割烹着姿の奥様方が、打ち立て・茹でたての名物ほうとうや、手作りのお惣菜を用意してくださる。次回13回は現在開催中の「第28回国民文化祭・やまなし2013」に併せて本年10月に開催されるとか。優しい景色と優しい歌に集う、優しい人たちが関わる会は、ますます裾野を広げていくことだろう。
(木戸敦子)