パッ句同好会
代表 岩田 桂様
(新潟市・中央区)
台風による大雨のため、避難勧告が出ていた7月9日の午前、クロスパルにいがたで開催されたパッ句同好会の句会にお邪魔しました。中止にしようかと思案したものの、取材があること、誕生日をむかえるメンバーがいるということで決行した、と代表の岩田さん。人数的には寂しくなったものの、本日85歳となった麦堂さんのお礼の言葉を皮切りに、楽しい幕開けとなりました。
麦堂…「あと長くて5年だと思っている。自分の通夜の席で俳句や書いたものを配ろうかと考えたりしているが、そんなことでも考えないと、おっかなくてね。いろいろ算段していると、死もまた楽しからずやの心境になる。この会のメンバーは家族みたいでここに来るのが楽しみ。私が親でみんなが子。あ、この人は妹と子どもの中間みたいなもんだけどね」と、隣りの方に笑いかける。
本日の兼題は「梅雨明け」「噴水」「ハンカチ」「団扇」「ソーダ水」「昼寝」「夾竹桃」および自由題。6句提出の5句選で、選は、5重丸~1重丸まで5~1点をつけ、その合計点で本日の高得点句を決める。
◎17点
カレー食ふ母の団扇を背に受けて 桂太
会員…中高生の子どもかな。その子が急いでカレーを食べているのを、母親が「わが息子も大きく立派になったものだなぁ」と団扇であおいでいる。親子の愛情を強く感じる/17文字でよくこれだけ多くのことを言えるなぁと。
◎10点
絵扇にかくしおほせし面輪かな 加賀女
会員…表情が読み取れないように扇子で隠しているのかな/きっと隠したいような微妙で複雑な表情なのでしょう。上品な感じのする句。
作者…恥ずかしくて隠すのにちょうどいい。
◎9点
面を脱ぎ勝利に火照る汗拭ふ 麦堂
代表…剣道で相手に勝って面をとって座って汗を拭って、その光景でしょうね。
作者…これは、昇段試験で5段を取ったとき。今でもその時の情景がありありと思い出せる。
◎8点
昼寝覚この世の今を確かめり 加賀女
会員…起きて薄暗かったりすると、夜かと思うことも。夢うつつだった向こうの世界から、引き戻された今を確かめている感じがよく出ている。
代表…「この世の今」は目覚めたとき、生きているんだ、という感覚か。
作者…朝だ! とハッと目覚めて、みんなを起こすのを忘れたんじゃないかと焦って、確かめたり。
◎7点
ソーダ水つつくいつもの隅の席 桂太
会員…「ソーダ水待たされてゐて疑はず」という鈴木栄子の句があったが、若い女の子が彼を待っているのか、ソーダ水をつつきながら物思いにふけっている。そんなほのぼのとした情景かな、と/二人が向かい合っていて、でも恥ずかしくてソーダ水をつついている光景が浮かんだ/私は一人だと思った、隅だと一人の感じがする。
作者…二人です。
会員…じゃあ、二人で隅の席でなにやかにやと話していたわけだ。
作者…いえいえ、語ることもできないので…昔の夢です!(笑)
団扇にも北斎の富士見つけたり 小春
会員…富士山は世界遺産になったし、いい句だと思って。
作者…伊勢丹に行った際に見た団扇に、赤富士が描かれていた。
◎5点
夾竹桃球児に空の広がれり 加賀女
代表…夾竹桃と百日紅は花期が長い。夏の盛りに咲くから、高校球児の季節とぴったり。新潟鳥屋野球場の脇にも夾竹桃があったからそのことかと。
作者…サトウハチローの父、佐藤紅緑の著作に『夾竹桃の花咲けば』という高校球児が登場する小説があった。
会員…あんた博学だからな(笑)。
◎4点以下
「団扇取つて」「そつちの新聞とつて」
会員…我われ夫婦も同じようなことがしょっちゅうあるので、共感していただいた。
作者…先日、新聞の俳句欄で「江戸つ子ぢやございませんが初鰹」という句を見たが、話し言葉をそのまま使う句に挑戦してみた。
香しき泰山木の堂々と
代表…「泰山木」という花の季語だけで、香しいことも、堂々としていることも、すべて表現できる。これだと、水膨れ俳句になる。17音しかないので、二重に泰山木の花を説明しているだけではもったいない。
夏燕ニアミスなんて何のその
会員…夏燕が跳ぶ、その様子をよく描写していておもしろいなぁと。
代表…作者は自分のことを言っているのでは?(笑)
ハンカチーフその一枚の見当らず
会員…「その一枚の」がミステリアスなところもあり、いろいろなことを想像させる。
作者…たかがハンカチだけど、ないと困る。
墓洗ふ母の名を待つ父の墓
会員…墓には戒名や法名が刻まれるわけで…。でも待たれるお母さんはいやよね(笑)。
新ジャガの茹であがる頃昼餉かな
作者…歳がわかるが、終戦後、主食の代わりにじゃがいもが配給になったりして…今の新じゃがはほんと、おいしい。
荒梅雨や句会ランチは海老真丈
代表…では、行きますか!
代表が選ぶ本日の一~三席
◎一席
面を脱ぎ勝利に火照る汗拭う 麦堂
◎二席
昼寝覚この世の今を確かめり 加賀女
◎三席
不揃ひの梅もまたよし漬けにけり 若菜
★代表の岩田さんが、かつてスローフード・にいがたの代表を務めていたこともあり、食を縁に生じた当会の主義は「句楽食楽」。句会のあとのランチとビールを楽しみに、今100店制覇を目指しているとか。この日は、豪雨のなか新潟の海老真丈発祥の店「茶はん」へ。パッと句が浮かぶようにと名付けられた「パッ句同好会」は、投句だけの方も含めて19名。おいしいものを食べ、俳句も上達し、時にはお土産もあるという、居心地のいい、いわば欲張りな滋養のある会なのでした。
(木戸敦子)