新潟大学 医学部俳句部 指導 山内春夫様(新潟県・新潟市)

新潟大学医学部俳句部
指導 山内春夫様
(新潟県・新潟市)
10月31日(金)夜、新潟大学旭町キャンパスに隣接する「康楽会館」において開催された、新潟大学医学部俳句部の句会にお邪魔しました。指導にあたるのは法医学の教授、山内春夫さん(俳号:百雷)。現役の医学生6名とOB1名を交えた句会の展開はいかに—。
 
本日の兼題は「秋の暮」と「冬支度」。7句出句の7句選。皆さん、何やら会場で電子辞書を操作し、腕組みをしたり、沈思黙考をしたりと、頭をひねっている様子。日々、授業に実習に部活にバイトにとお忙しい面々、見聞きしたあれやこれやのストックをその場で俳句にしている模様。

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▲連日西に東にとお忙しくご活躍される山内さん

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
提出した短冊は、各人が筆ペンできれいに清記する。選句後の披講は三葉さん。蓋を開けてみるとOBの弓月さんが絶好調。先生から「弓月くん、独占禁止法だよ。では、今日の講評をお願いします(笑)」と急に振られる弓月さん。
 
弓月:準備も何もしないで選んでしまったものですみません。初めての講評ですが、客観写生を標榜している会なので、その視点で選びました。
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▲間違いがないよう真剣に筆ペンで清記する

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
々と水面に映る月の影               花楓
これまで幾度となく詠まれた情景だが、素直に詠っているところに好感を持った。
 
秋晴や港出る船戻る船     三葉
「秋晴や」で場面転換をして、うまく俳句を作れている。切れ字の使い方が適切。
 
やわらかな光を浴びる山紅葉        裕衣
裕衣さんの初鳴きの句。まさに俳句を始めたばかりの素直さが出ている。もちろん、どなたの句かわからないで採ったが、このような句を作っていくといいのだろうなーと感じた。
百雷:裕衣さんおめでとう。「やわらかな光を浴びる」のフレーズが山紅葉と合っている。
 
朝日浴び銀杏黄葉の黄金道            枝蛙
すっきりとできた印象の句で、さらっとしているがいい。
百雷:誰もが見たことのある景でイメージがつきやすい。余計なことは何も言わなくてもいい、ということがわかる句。
 
実家より少し早めの冬仕度            門四郎
写生ではないが、余計な気持ちを込めずに冬支度をしたというのが写生ともいえる。実家より北に住んでいるということがわかり、字面以上に表わしているものがあり、いただいた。
 
高き枝の柿つつきたる烏かな        三葉
まさに写生句。客観写生に真面目に取り組んでいる姿勢が伝わってくる。
 
藤豆の鞘はぜ落ちて宙を舞ふ        花楓
最初何のことかわからなかったが、藤棚の鞘のことかと気がついた瞬間、動きのある情景をうまく捉えていると思い、いただいた。以上、お粗末な講評ですみません。
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▲披講担当三葉さん(左)と今日初鳴きの裕衣さん(右)

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
続いて先生が各句について講評します。
 
錦木の燃やし尽くさん程の赤        弓月
さりげなく作っているが「燃やし尽くさん程の赤」で、紅葉の赤が燃えるようだとうまく詠っている。
 
どんぐりを土産がわりにポケツトへ            門四郎
最初、一箇所変えようと思ったが、披講を聴いているうちにこれでいいんだと思った。ちょっと採り損なったな(笑)。
 
石の上弾む団栗小気味よく            花楓
この句のよさは景とリズム。音が聞こえてくるようないい句。
 
口開けて月食仰ぎ見る女               弓月
「口開けて」と「仰ぎ見る」が少し重なるから、季節を入れて「口開けて秋の月食見る女」くらいがいいのでは。
 
ふくふくと猫肥ゆるかな冬支度       花楓
「かな」で少しリズムが落ちるので「ふくふくと猫肥ゆるのも冬支度」「ふくふくと猫肥ゆるとて冬支度」なども考えてみたが、「ふくふくと猫肥えてゆく冬支度」にすると、寒くなるにつれ肥えてゆく動きを出せる。情景としておもしろいので、これで何句か作ってみると、より共感を得る句だと思う。
 
秋風にのってとんぼが空を舞ふ     六波
当たり前といえば当たり前だが、句を聞いてその情景が思い浮かぶ、そんな句を作り続けてほしいと思う。
 
街を行く人急ぎ足秋の暮               枝蛙
これも同様。秋の暮れ、人はみな急ぎ足で歩いているという何気ない情景だが、季節をぴたりと現わしている。
 
他、高得点句
大銀杏輝く黄葉風に向く               百雷
自販機に赤色増える冬支度              弓月
七色の楓千年を知るといふ            百雷
 
百雷:今日は取材ということもあり、少し緊張したかな(笑)。裕衣さんも初鳴きができたし、これを縁にどんどん俳句を楽しんでください。他、感想を聞いてみようか。
花楓:上の方にいろいろと教えてもらいながら、和気藹々とやっています。名前はわからず採っても、ああ、やっぱりこの人が!と思うような、その人らしさが出ている句もあれば、意外な人の句のこともあり、そこがおもしろい。
枝蛙:最初は詠むだけで楽しかったが、選ばれるとより楽しいことがわかった。ますます練習して選んでもらいたい(笑)。
百雷:たのもしいね。じゃあ、早く次の場所にいこうか(笑)。
 
 
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★戦前の新潟医大俳句会は、日本における脳神経外科学の権威であり、俳人としても著名な中田みづほ、法医学の高野素十、浜口今夜、及川仙石というホトトギス派の同人を中心に隆盛を極め、「ミュンヘンのビール」と並び称されるほど、天下にその名が知れ渡っていたという。
この中から第二の中田みづほが生まれるか―。若者の行く手は茫洋として、若者は未来そのものです。仲間と師を大切に、何事にも全力でがんばって!(木戸敦子)
 
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