信天翁句会(新潟県長岡市)
指導 中原道夫様(銀化主宰)
連絡先/恩田富太 Mail echigoryoma@gmail.com
去る1月26日(月)、新潟は長岡市にある、これが市役所!? と目を疑うようなモダンでユニークなつくりの
「シティホールプラザ アオーレ長岡」で開催された第十九回「信天翁(あほうどり)句会」にお邪魔しました。
まずはこの信天翁句会の成り立ちから――。
きっかけは、2013年4月27日に開かれた、ある映画の上映会。その映画とは幕末の長岡藩士で信州・伊那地方で最期を遂げた漂泊の俳人、井上井月を描いた作品「ほかいびと」。その後の懇親会で、トークショーに招かれた中原さんと、長岡市の若手有志でつくる「越後RYO―MA倶楽部」代表の石丸局長が、俳人井月を介してつながった縁なので、長岡で句会を開こうと発案。中原さんには、日曜日の新潟市内での句会のあともう一日滞在していただき、毎月第四月曜日にこの信天翁句会が開かれているというわけです。
句会名の「信天翁」は、現代では俳句をたしなむ若者が絶滅危惧種に近く、同じ絶滅危惧種の「あほうどり」にあやかり、少数ながら地道に句作に取り組み、日本文化の伝達者たらんとの意を込めているとのこと。
早速翌月の5月26日に第一回の句会が開かれましたが…メンバー全員がずぶの素人。基本的には俳句を“教えない”中原さんによる「俳句の成り立ち」の講義から始まり、メンバーは得難い体験をしたとか。「銀化」メンバーにも運営のサポートに入ってもらい、句会の体を取るに至り、今回が第19回目と相成ったわけです。
投句は3句、うち1句が読み込みで今回は「間」。互選のあと中原さんの普通選、大丸の発表、講評と続きます。
炭をつぐ祖父のみぞ知る間合ひかな 堀川
灰になる前に炭を入れないと火が回らなくなる。その間合い、連携プレーが祖父は非常に上手だったということ。もちろんこれでもわかるが、上下をひっくり返すだけで意味の通りやすさが違ってくる。祖父のみぞ知る炭をつぐ間合ひかな、とできる。
行間を読み取れぬまま春兆す 敦子
ひとところは空気がよめない人を「KY」と呼んでいたが、手紙などで本当はこう言いたいんだろうなこの人…と行間からにじみ出てくる、ということがある。具体的にはわからないが、冬の間にやりとりがあり齟齬があって、本来は冬の間に読み取って解決しておくべきことだったのかも。
寒がりの四温選びて逝かれけり 越野
「“逝くんだったら暖かい小春日に逝きたい”ってあの人よく言ってたもんね。寒がりだったから」と、故人を思い出しつつ偲んでいる弔句。
初御籤眉間の皺を増やしけり 織田
推して知るべし、あまりいい内容ではなかった。失せ物は出てこない。恋は成就しない。織田くん今年もまたそうだったの?(笑)
電話の子かまくら造る約束す 堀川
この約束は大人同士ではあり得ない。子どもだとわかるから、子どもは不要。子どもと子どもでもいいし、「かまくら造ったから遊びにきな」と孫と祖父、片方は大人でもいい。電話にてかまくら造る約束す、でいい。
白き屋根にて賀詞交わしたる朝かな 大日方
「昨日はいっぱい降ったねー」というところだが、改造の余地あり。夜中でも雪おろしをしている人はいるし朝は不要。時間帯は勝手に想像させればいい。季重なりになるが、雪おろすついでに賀詞を交わしたる。
百薬の長を備へて冬籠 痴龍
一升瓶を携えてちびりちびりとやろうという魂胆だろうが、らしすぎる句かもしれない。百薬の長を備えて韜晦している、ということ。
針魚(さより)湧く波間と波間ぬふやうに 十見
サヨリの表記は、他に針嘴魚、竹魚、細魚、鱵など多くある。尖っている口を針に見立て、波間と波間をその針をもって縫い合わせているとしゃれてみた。“湧く”で、たくさん発生したことを言いたいのだろうが、必要かどうか。しかけが先に見えた。
雪掻いていつの間に来し老いを知る 野水
去年までは感じなかったが今年は違う。忍び寄る老いがわからなかったということ。野水くんの句? まだ20代じゃない、老い先長いよ。痴龍さんなら話はわかるけど(笑)。
ショール巻く今日はいづこの国の人 敦子
ショールは冬の季語。“春ショール”とは面積や材質、質感、色が違う。旅行好きな女性なのでしょう。今日はモスクワ、明日はブタペスト…どこの国の人になっているのかと。
佐保姫のお越しあれとや猫間上ぐ 恩田
佐保姫は春の擬人化で、秋の竜田姫と対になる春のシンボル。室町時代には「佐保姫の春立ちながら尿をして」の句もあり、女性が立ち小便をしていた時代もある。ぐずぐずしてなかなかやってこない春が、猫間障子からひょっこり来てくれるのでは? きてくだされや、と誘致している句。
着膨れをミニスカートに載せてゆく 荒木
下は着膨れていないという、アンバランスなところを詠んだ。荒木さん? 盗撮していないだろうね(笑)。
初笑ひ間のよき噺上げと下げ 西脇
下げは“落ち”のことであるが、観客が先に落ちを言ってしまうこともあり、「お客の方に先に言われちゃって間の悪いやつだなぁ」なんていうこともある。これはちょうどいい間合いだったということ。
悴めど樽底の糠探りをり 藤沢
底冷えする寒さのなか、糠もしっかりと冷たい。
棟上の木の香芳し細雪 金子
細雪が一考の余地あり。
◎大丸2句
初明り待たず来たれり日刊紙 藤沢
まだ明るくなっていない、暗いうちに元旦の新聞がどさっと届いたということ。
風花もそはそは彼の来る時間 織田
風花はちらちらっと見え隠れするもの。どこかで待ち合わせをしていて、風花を気にしながらも彼がこない。期待感と不安、そういう気持ちがない交ぜになったラブの句。織田くんの句? 今、男と付き合ってるの(笑)?
○他の句
冬三日月スカイツリーを尖らせり
スカイツリーはかなり詠われているが、スカイツリーと季語で言葉がほぼ満杯。あたかも冬三日月がナイフのように、スカイツリーを削り尖らせているという句だが、類想句がたくさんあることを知っておいた方がいい。
悪びれず土間に寝転ぶ冬至南瓜
悪くないが、いつどこで何がどうしてと書かなくともわかる。
歌留多取り茶の間に響く声数多
これも同様。部屋の中でやってることはわかるから茶の間はいらない。
道端に神出鬼没雪達磨
必ず“どこで”を書きたいんだね(笑)。空にある雪だるまの方がむしろおもしろいし、ないとイメージが自由に喚起される。通じるときは書かなくていい、これ原則。その分言葉が使える。
大寒や身辺捨てるものばかり
大寒は一日のこと。“冬籠”とすればタームとしての期間、日数がでてくる。これでぐんとよくなる。
- 質問コーナー
Q.職業柄(新聞記者)、いつどこでを書きたくなるのですが…(笑)。
中原/俳句は今、我、ここだから必要ない。5W2Hのような新聞的配慮はいらない。わからないものは、何かイメージするものを示唆すればいい。
Q.餅搗くや父祖代代の叩き土間 という句には場所が入っていますが…。
中原/この句の場合は「叩き土間」で家のつくりがわかる。植木鉢や自転車が置いてあるのか、由緒ある家なのか、天井の高い家なのか、父祖代代とありこれは必要な土間。
Q.懐妊の兆し寒卵を一つ の「寒卵」とは…?
中原/冬の代表的な季語で、寒の入り~節分までの寒中に産まれた卵のこと。滋養が高く、日もちもいい。昔、卵を持ち歩くために稲わらで編んだ「つと」を使用していたが、卵の包み方は全世界で色々あってすごくおもしろい。<RUBY CHAR=”寒芹”,”かんぜり”>は根白草ともいうが、白い根の部分が長く実にうまい。
Q.着ぶくれてハレの日ケの日会えない日 の「ケの日」とは…?
普段通りの日常が「ケ」の日、祭礼や年中行事などを行う特別な日が「ハレ」の日。民俗学者の柳田國男によって見出された、時間論をともなう日本人の伝統的な世界観のひとつ。20代でわからなくとも、赤っ恥ではないよ。
★「五・七・五は日本人の遺伝子に刻まれたリズム。他国や多民族でいえば、レゲエやブルースのような私たち独自の文化」という中原さん。紙面の関係で割愛しているが、1つの単語から話が多岐に拡がり、惜しげもなく披露される知識に「へ~そうなんだ!」と、少し賢くなったような錯覚を起こす。超多忙にもかかわらず、俳句の裾野を広げようという熱意、行動力は俳壇の筆頭格。信天翁は英語ではアルバトロス。ゴルフ用語で使われる場合、ホールインワンより至難の業とされているプレーだ。大きな師と結社の重鎮に見守られ、絶滅危惧種から起死回生、どんどん仲間を増やし増殖、進化してほしいと願っている。 (木戸敦子)