『朱鷺』里山句会 (新潟県・佐渡市)

『朱鷺』里山句会
主宰 赤塚五行様 (新潟県・佐渡市)
5月26日、「ホーホケキョ」と鴬の鳴き声が聞こえるうららかな午後、新潟は佐渡島で行われた『朱鷺』の里山句会にお邪魔しました。新潟市からはカーフェリーで2時間半、時速80㎞の超高速船ジェットフォイルで55分の佐渡は、近いような遠いような島。両津港から車で30分、金井地区の小高い丘の中腹にある句会場には、燦々と光と心地よい風が吹きそそぎ、大きな窓からは里山の景が一面に見渡せる
 

赤塚さま
▲様々なことに精通する五行主宰は特に野鳥に詳しい鳥博士

 
 
 
 
 
 
 
 
 
本日は5句投句の50句から4句選、うち特選1句を選ぶ。主宰は特選3句。始めに一昨日開催された「佐渡俳句大会」の模様が伝えられ、「高得点句は好かれる句で佳句ではあるが、名句かどうかはわからない。いい句は省略があるから、句会でパッと見ただけではその深みがわからないこともある」の言葉に勇気を得て、選句発表、点盛り、各人の選評、主宰の講評へと続く。
 
◎8点句
はつ夏の風の匂ひの幼かな            和惠
はつ夏も風の匂いも幼も、みんな柔らかい感じがしていいなーと/一読して、風の匂いがするような爽やかな句で、小さい子どもの雰囲気と初夏の風の匂いがピタッと合っている/駈けてくるときの風の匂いが、走り始めたくらいの子どもと一緒に胸元に飛び込んできたのかな、初夏が効いている。
赤塚:特選にしようか迷ったが「風の匂い」は、よく見るので新鮮味という点でどうかな、と。夏の初めの風の匂いなのか子どもの匂いなのか、微妙なその時期の匂いをよく捉えている。最高点になるのも解る。
 
◎5点句
青嵐や一輝の墓の供花赤し            智弘
青嵐と一輝の人生と赤い供花が響いてきて、すぐに特選にしようと思った。
赤塚:佐渡が生んだ革命の志士、※北一輝の墓に赤い花が供えてあった。赤が鮮明でリズムも潔く、俳句の内容と合っている。青嵐でもいいが、青嵐や、で切った方が、中七と下五が強調される。特選にいただいた。
※戦前の日本の思想家、社会運動家、国家社会主義者。二・二六事件の理論的指導者として逮捕され刑死した。
 
オカリナの感触指に聖五月            憲忠
五月晴れの空に向かってオカリナを吹く、清々しい感じが聖五月に象徴されている。
赤塚:私もオカリナを買って10年以上、いろいろやってはみたものの今は飾ったまま。横笛やリコーダーも指に感触があるが、オカリナは指に痕がつき、吹いていなくとも何かの拍子に指に感じる。オカリナのカ、感触のカ、で、指に鮮明に感触が伝わってくるよう。聖五月も含め、リズムもいいし作者が感じたような感触を私も感じ特選に。
 
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▲のどかな里山の風景

 
 
 
 
 
 
 
 
 
◎4点句
燕来て夫婦げんかの種ほぐす よし子
私のところもそうだが、一方的に怒られて黙りこくることが多い(笑)。「種ほぐす」がよくわからなかった/これが一番生活に密着しとるなーと、現実感があった(笑)/二人の間にわだかまりがあって、そんな時ふっと見上げたら燕がサッと来て、こだわっていたものがほぐれた。うちもしょっちゅうやってるから(笑)。
赤塚:自分の経験にマッチしていると採りたくなる。しょっちゅうやっている人たちが採ったんだな(笑)。種が気になったが、他にいい言葉がありそう。
 
探したき心の置き場春愁ひ            進
そんなことあるなーと共感していただいた/春の気持ちの置き所を探しながら、でもそんなに深刻ではないという気がした。
赤塚:上五と中七で「春愁い」の説明になっているから、季語を別のものにした方がいい。例えば「若葉風」とすれば、少し肌寒い湿っぽい風を受けていると、自分の気持ちをどこに置いたらいいのかと、感じている様子が出せる。
 
夫大事われなほ大事苺食む            明子
私も畑で苺を摘まんでは食べる。お父さんも大事だけどまず自分が大事/それは、お父さんの分の苺は残さないってこと (笑)?「われなほ大事」がおもしろい。
赤塚:男性陣は「夫」の字を「妻」に代えればいいね(笑)。「夫」は大事だけど、自分あっての「夫」だと。他の季語でもいい気がするが、これでいい。特選。
 
◎3点句
ベランダの一つの空の鯉のぼり       和美
都会のビルの林立している中のマンション。田舎とは違い、そこから見える限りの空に鯉のぼりが上がっている/子どもたち一人ひとりに、一つひとつの空があるようでいい。
赤塚:ベランダの小さな鯉のぼりだが、子どもにとっては大きい鯉のぼり。その上に広がっている空は、自分だけの空があるようで楽しい。感覚のいい作品。
 
今日はまあ行く先ざきの燕かな       儀一
一茶の「これがまあ終の栖か雪五尺」を思い出したが、今はどこにいってもスイスイと燕が飛んでいて初夏だなーと/しばらくすればどこにでもいて珍しくもないから、これは初燕のことを言っていると思う。
赤塚:ただ、そこは「初燕」と言わなくていい。今日初めて燕を見た、よそに行くとそこでも見た。みんな一緒に島に渡ってきたんだな、ということが「燕来る」や「初燕」と言わなくてもわかる。
 
皆揃ふ日を待ち筍飯を炊く            美知子
筍飯が字余りで気になったが、みんなが集まった日に…という母の優しい心情が出ている/松茸ご飯でもお寿司でもいいかと思ったが、皆が揃う久しさが筍飯くらいでちょうどよく、温かい印象をもった。句またがりが面白い。
 
五月晴れ平野見渡す義民殿            克一
佐渡の五月晴れの豊かな国中平野を見おろせば、義民の方も自分のした仕事の甲斐もあったという思いであろうし、いま生きている島の人間からすれば、おかげさまでこんなに素晴らしい佐渡の遺産を手にすることができました、というお礼と報告の意味も汲み取れて好きな句。
赤塚:新しくできた義民殿にまだ行ったことはないが、寄付を募って建てたということ。今こうして米をつくることができ、代田には山々も映って、いろいろな感謝の気持ちがしのばれるいい句。
 
純白のテーブルクロス夏は来ぬ       憲忠
純白のテーブルクロスに、夏が来る清新で新鮮な感じが表現されている。
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◎他の句
朝燕洗ひたてなる大空へ               明子
夜、大雨が降った翌朝の様子を「洗ひたてなる」と。その表現がすばらしくていただいた。アのリズムもいい。
 
球拾ひのみの練習青葉風               美知子
赤塚:主に3年生が練習していれば、入ったばかりの1年生は草むらに入った球を探しに行くなど、練習も主に球拾い。ちょっと悲しいが、一日元気にがんばった様子が伝わってくる。
作句して時々庭の金魚草               よし子
赤塚:今日は締切りだから2、3句作ろう、と思った割に気分転換ばかりしているということか。「作句して」が説明的なので、「句作りや」として切った方がいい。「くもり時々はれ」みたいで面白い。
 
磯鳥のさらに小走り立夏かな           明子
赤塚:佐渡にはイソヒヨドリやイソシギ、ミサゴ、チドリ等、海鳥がたくさんいるが、これはチドリだと思う。「千鳥足」というが、砂浜を走る様子はそんなものではなくツツツツと、とても早い。「夏来る」の方が動きが出る。ミサゴの英訳名はオスプレイ。飛びながら空中で止まり(ホバリング)、急降下してボラを捕る。この水平離着陸ができるミサゴの性質から、軍用機をオスプレイと命名した。
 
雉子翔つや不意の出会ひの山畑       儀一
私も雉子に遭遇したことがあり、その時のことを思い出して。
赤塚:国鳥の雉子は愛情が深く、子どもが大事だから卵を抱いたまま人が来ても逃げない。だから不意の出会いがよくある。地面に卵を産むのでテンや蛇に狙われやすく、そのために卵から孵ると早く歩き出す。自然の摂理でよくできている。
 
鬼太鼓島を響かす春祭
たけなはの鬼太鼓に酔ふ島の春
掛け声の社ゆるがす鬼太鼓
赤塚:「鬼太鼓」は最近春の季語として歳時記に載っているので、春祭では季重なり。三句とも島祭の様子がよく出ているが報告で、句としてはもう一歩。
toki
▲句会終了後には懇親会も

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
★毎月の句会の前に句稿をつくり、各人はよく吟味したうえで選をし、疑問点を整理して会に臨む。すべては短い句会の時間をより有意義に使い、皆さんに上達してほしいという主宰の願いから。アイディアマンで情熱家で、佐渡の文芸を広く深く耕しつないでいくために走り続ける五行主宰。島の中学生や「鼓童」の研修生にも長く俳句を指導している。投句集も土の匂いのする、自然と共生している句の多さに目をみはる。いみじくも『朱鷺』24号の一節に「海や山、花や虫、町や人に感謝して、挨拶するように句ができたらいいですね」とある。懇切丁寧な指導が奏功し、師の想いを踏襲した句が次々に生み出されている。朱鷺の学名は「ニッポニア ニッポン」。美しい日本語で詠いさえずり、大空に舞う姿を想い描いてみる。   (木戸敦子)