きみ句会(東京都 国分寺市)
指導 中川 肇様
連絡先/〒185―0032東京都国分寺市日吉町1―2―11
042―322―8585
7月23日、東京の奥座敷、あきるの市五日市の田野倉邸で開催された「きみ句会」にお邪魔しました。以前は「あきるの句会」の中心メンバーとして田野倉さんの奥様、喜美好さんがご自宅を句会場として提供していたが、奥様亡きあとは遺言に従い、夫の訓郎さんが以前とかわらずにご自宅を句会場に、名称も「きみ句会」と改め新メンバーとして研鑽を積んでいる。
冒頭は、指導にあたる中川さんの本『野菜・山菜の花』上梓を皆さんでお祝い。いつも通り、テーブルにはたくさんのご馳走が並び、まずは食べて、飲んで、腹にしかと納めて胆を据えてから句会スタート。今日の兼題は「トマト」と「かぶと虫」。5句選のうち一句を特選に選びます。
中川…いやぁ見直したよ、この句会。今日はいいのがたくさんあるから15句選ぶよ。
会員…ほんとの実力はこんなもの。やればできるんです。酔っぱらってないですよね?
中川…酔っぱらってるよ。
会員…以前から“新潟から取材にくるのに変な句を出して俺に恥をかかせるなよ”と半分おどしですよ(笑)。
と、選句の合間もトークの手を緩めない。披講のあとは一人ずつ順番に5句を受け持ち、その句を選んだ人の声を拾ったり、その句を採らなかった「採らざる弁」を聞いたりしながら司会を担当し会を担っていく。おとなしく黙ってなどいられない。
◎まずは特選3人の6点句より
子に届く宅配便やかぶと虫 佳子
私も、今はネットでかぶと虫を買うということを詠もうとしたが詠めなかった。うまく表現されている/子でも孫でもいいが、田舎に住んでいるジイちゃんバアちゃんが、かぶと虫を捕って送ってくれたと読んだ。
中川…措辞を整えるとすれば、上5が上6になってもいいから「孫に届く宅配便やカブト虫」これでいい。子より孫の方がおもしろい。
会員…私は親がネットで頼んだかぶと虫が宅配便で届いた、としか読めなかった。
中川…一番いいようにとってあげるのが選句。俳句のかたちがどうのこうのではない。流れがいいか悪いか、何をいいたいのか、それがいいかどうかで評価する。
作者…自然の中でかぶと虫を捕る子、親と一緒にデパートで買う子、今は様々。いろんな風に読んでいただいてよかった。
◎6点句
理科ノート表紙は今もかぶと虫 肇
かぶと虫は昆虫の王様。男の子の原点だと思う。クワガタではだめ。/力強く生きろ! というメッセージも潜んでいるような句/ジャポニカ学習帳のことだと思う。気持ち悪いということで昆虫が3年くらい前から採用されなくなったが、人気も高く限定復活したというニュースを先日読んだ。
採らざる弁…小学校ではなく、中学校の教師でしたから普通のノートでした(笑)。
◎4点句
兜虫きめ手はいつもうっちゃりで 良江
少年の日の思い出をずばり詠んでいただいた/戦う場面と相撲のうっちゃりを合わせている。目のつけ所がいい。
採らざる弁…うーん、私の句です(笑)。
中川…自分の句でも知らないふりして、何か言って役者を演じてみて。
ほろ酔ひの君の箸先トマト追ふ 佳子
視点がおもしろい。光景が鮮やかに目に浮かぶ。ましてやほろ酔いだし。
中川…「ほろ酔ひの君の箸先ミニトマト」にすると完璧。大きなトマトのわけはないし「追ふ」だと説明になる。
会員…でも、丸くて転がるものならトマトじゃなくてもいいんじゃない?
会員…トマトが兼題だから(笑)。
全体もほろ酔い気味になってきて「お酒ないの?」「もうあいたの?」と、何度も徳利に日本酒を注ぎ足す。その間にも、中川さんの容赦ない「小学校から日本語を勉強しなおしてください」や「いい句はまぐれでできることもあるが、選句にまぐれはないから」…等の愛のムチが飛ぶ。一方、メンバーも「大丈夫、へこたれることないから。私たちも散々バカだなんだと言われてきてるけど、バカは中川さんの常套句」「バカじゃないのよ、バーカなの(笑)」と受けて返す。
青トマト昔話をもう何度 ゆう子
青臭い時代の話は何度も聞いているが、決していやではないという感じが出ている/さっき聞いたよ、というニュアンスもある。
かぶと虫初恋の児の手のひらへ 訓郎
かぶと虫を好きな子にあげる、なんともロマンチック!/郷愁がある。ういういしさも十分に出ている。
オスメスを教えてくれたかぶと虫 肇
オスとメスの明らかな違いを、かぶと虫と兄を通して知った。
採らざる弁…この句は6番目、次点だった(笑)。
A面もB面もなく蜘蛛の糸 和子
俳句は「自然をよく見ること」が基本だが、表も裏もない蜘蛛の糸の精緻な様をよく見て句にした/蜘蛛の糸に対してA面やB面など考えもしなかった。
中川…以前、蜘蛛の糸をレコード盤にたとえて句にしたことがあった。この句はもう僕を超えたな(笑)。
和子…はい、先生の句に上乗せしてつくりました(笑)。
包丁の切れ味試すトマトかな 訓郎
こういうふうにすっきりとシンプルに詠いたい/テレビショッピングの映像が浮かんだが、トマトの特性がよく出ている。
採らざる弁…だから何なのか、と感じた。
中川…まさに実感の句。トマトの持っている繊細さと包丁の切れ味のよさとの対比。これは採らなきゃだめ。あなたまだ俳句が途中までしかわかってないね。
会員…そんなことないですよ。もう少しトマト本来の特性を詠んでほしかったが、包丁に力点がいっていて、おもしろいとは思ったが私も採らなかった。
中川…これは明らかにトマトに焦点があたってるよ。
少年のことば明快かぶと虫 和子
中身はわからないが、少年の発した言葉が明快でそれがかぶと虫に重なり、少年、ことば、かぶと虫が三位一体でおもしろい/少年の潔さとかぶと虫のつながりがいい。
中川…名詞だけでできている句は強い。これはいい俳句ですね。
あれあげようこれあげようの盆の入り ゆう子
この時期いろんなものがお店で売っていて、仏壇に何をあげてもてなすか気を遣う/あれあげようこれあげよう、という言葉の使い方がおもしろい/素直で気持ちのこもった句。
かぶと虫授業のさなか這い出して 訓郎
学校にもってきたかぶと虫。隠していたのに授業中に出てきてひやひやしている様子がよくわかる。
中川…「這う」は「這ふ」だから歴史的仮名遣いだと「這ひ」となるが、口語俳句だからこれでいい。
抵抗の竿のしなりや岩魚釣 靖子
そのままなんだけど、しなり具合をうまく詠っている。
中川…岩魚はどう猛で重いのはわかるが、これだと岩魚を説明している。岩魚じゃなくても成り立つ。
作者…本当のことをいうと、これ鮎釣りを見て作ったの(笑)。
最後のまとめとして、中川さんより「手前みそだが、今日もいい句会だった。指導者のいうことをハイハイとよく聞くお行儀のいい句会が多いと思うが、木戸さん聞いたでしょ? 黒といえば白、白といえば黒、みんな楯突いてくるからね。まぁ、そういうことを言わせる俺の度量がすごいのかな」「それを言いたかったのね!(笑)」。
◇その他の句
万緑を満杯とせし窓辺かな
送り火の烟しみいり天あおぐ
ナポリタン味の決めてはトマトかな
水中花時止まりたりかの日より
陽の温み丸ごとかじるトマトかな
★公明正大とはかくのごとしかと思う。上下の隔てなく、本音と建前もなし。あるのは食べる楽しみと、学ぶ充足感、そしてふれあう喜びだ。バカだなんだと言われながらも、皆さん毎回楽しみに集まってくるのは、おいしいものの魅力以上に、安心して言いたいことを言える心地良さを知っているから。刺激的で決して“なごやか”ばかりではないかもしれないが、終始笑いにあふれ、いいものはいい、悪いものは悪い、と言い合える、この和気藹々な関係性は最高だ。(木戸敦子)