椋俳句会 小雀の会
代表 石田郷子様
(埼玉県・飯能市)
昨年12月12日、埼玉県飯能市名栗で行われた小雀の会の吟行句会にお邪魔しました。
小雀の会は椋俳句会(2004年創立 代表石田郷子)の勉強会の1つで、毎月吟行会を重ねている。10時半、参加者が飯能駅に集合すると、迎えにきたのは名栗温泉「大松閣」のバス。駅から入間川に沿う形でバスに揺られること約45分。旅館のお食事処「山の茶屋」に到着すると、皆さん昼食前の寸暇を惜しんで句材さがしへと。どんなモノやこと、森羅万象が本日の俳句に仕立てられるのか―。
吟行をしながら、澄みきった青空の中を石田代表のお宅「山雀亭」までそぞろ歩き。
「山雀亭」では、大勢の狸と、どなたかが置いていったのであろう野菜たちが出迎えてくれる。暖かい部屋に入り、ほっとしながら、本番に向け息と句を整えていく。
◎以下、まずは代表の特選4句より
ふりむけば真顔なりけり十二月 節子
はっとするような意外性があり、十二月に適っている。ただ類句が心配。
実南天未だ拓けぬ道の上に 青嶺
あの道を見て、よくまとめたと思う。大人っぽい言い方をしてなかなかかっこいい(笑)。
ぼんのくぼあたりにさざんくわの気配 節子
よくわからなかったが、「さざんくわの気配」がいい。ひらがなの「さざんくわ」が、気配や存在を感じさせるのだと思う。
言の葉のみな誤れる冬の滝 あかり
冬の滝を見て、自分の中でいろんな言葉を言ってみても何か違っている、と感じている作者。みな誤れるがおもしろいし、類句はないだろうと。
◎代表選、互選の句
静かさをかこめる空や冬木立 せきれい
木立ではなく、空が囲んでいるので少し変わっていると思ったが、冬の静けさがでている。正確な表現ではないと思うので、少しなおした方がいい。
ピザ釜の小さき煙突クリスマス 佳代子
ピザ釜がいい。クリスマスらしさがでている。
木守を守るものなき夕かな あかり
くっきりと木守柿の情景が映像として見えてくる。
鳴きたつる犬を遠聞く昼炬燵 ユキ
渋い句。今時代劇にはまっているが、そんな雰囲気の句(笑)。遠聞くがいい。
山茶花の蕾硬くて指に力 青嶺
下五の字余りがおもしろかった。青嶺くんはこの作り方でいい。触れてみたときの新鮮な感じが伝わる。
故郷へ帰る話も小六月 こでまり
十二月ではなく小六月として上手にまとめた。情感のある優しい句。
まばたきで応ふる犬や冬菫 佳代子
今日見たのは犬だったけど、猫の方がいいな(笑)。
つぶりたる瞼のずれや冬日向 あかり
繊細な句だが、「冬日向」がすわりすぎて特選にしなかった。
枯菊の這ひて地球にずつとゐる 節子
枯菊の、枯れているのにいつまでも生きている感じを「ずっといる」とした表現のおもしろさ。
幹に棘あり中空に冬木の芽 英一
パッパッと対象を絞っていくようでかっこいい句だが、中空がどうも気に食わなかった(笑)。
葉牡丹の触れれば応ふ固さかな 青嶺
文法上は「応ふる」としなければいけないが、作り方としていい句。触ってみたら、固くて押し返してくる感じをよくつかんでいる。
耳奥にサラダくづるる冬景色 節子
噛んでいる音だと思うが「野菜」というわけにはいかないから「サラダ」でいい感じに。冬景色が効いている。
冬蝶と見えしは微風かも知れぬ せきれい
冬蝶の命のはかなさのようなものを風であらわしたところがいい。ちょっときどりもあるが、この句の場合はいい。
◎互選句
榾をつぐ誰れを厭ふといふでなく 英一
これは見落としちゃった(笑)。よく、気持ちを汲んでいて味わいのある句。
川音を楽の音と聴く十二月 こでまり
まとも過ぎたかな。確かにきれいな音だったが「楽の音と聴く」が少しきどっている。
山茶花やいくたび訪へば通ふとふ あかり
幾たび訪へば通ふといえるのか、ということだと思う。つかんだことを言おうとしているのはわかるが「通ふとふ」がつまっている。もうひと工夫。
畝せまる庭の端まで蒲団干す 英一
説明した割にはわからない。畝の上に蒲団を干すくらいまでのいい方ができると、畝がそこまで迫ってきている景が見える。
手のひらの包む冬菊日の匂ひ 佳代子
優しい句。手のひらので触感できているから「日の匂ひ」だと少しずれる。一つのもので詠んだ方がいい。
山茶花や少し離れてふり返る せきれい
山茶花の感じはあるが、細見綾子の「鶏頭を三尺離れもの思ふ」の句もある。少し歩いて振り返る、ということだと思うが「少し離れて」だと、後ずさりしているみたいで振り返ると合わなくなる。
春慶の塗膳数多神の旅 こでまり
塗膳と神の旅とはあっているが、数多だと言い過ぎかな。ここに塗膳が5つあるが「春慶の塗膳五つ神の旅」の方がおもしろい。
◎石田代表(雀さん)の句
集会所サンタの服の脱いである
鉛筆を落して拾ふ冬日かな
少しづつ降りて来たれる冬日かな
茶の花のほろりほろりや独り言
真ん中に蜜柑の艶の置かれけり
★ご自身の句が選ばれると「はーい」と元気よく応える代表の石田さん。先生然としたところが全くなく、山雀亭の在りようも人となりもオープンで実に自然体。「〇〇さんの句としてはこっちがいいね」と一人ひとりをよく見ての指導は、その個性を曲げることなく伸びやかに育てる。
ちょうど1月に藤井あかりさんが『封緘』で第39回俳人協会新人賞を受賞した。『椋』誌にある「椋樹不言樹花清々」の言葉どおり、何も言わない椋の木だけれど、今後ますます様々な人やものが自然と集まってくることがわかる。(木戸敦子)