『季刊芙蓉』 錦糸町教室 代表 照屋眞理子様(神奈川県・鎌倉市)

 
『季刊芙蓉』 錦糸町教室 代表 照屋眞理子様(神奈川県・鎌倉市)
 3月11日(金)、東京・錦糸町の駅ビル内にある「読売文化センター」で行われた「季刊芙蓉」の錦糸町教室にお邪魔しました。「季刊芙蓉」は平成元年に須川洋子さんが創刊。現在は照屋眞理子さんが代表を継ぎ、4ヵ所で指導にあたっている。
 
教室のドアを開ける照屋さんに視線を移すと、なんと杖をついていらっしゃる。数日前に脇腹の肉離れを発症したとのことで「痛くて食べられなかったけど、幸い口だけは達者なので」と、痛みを押してお越しくださる。また、冬の間、天候の関係でなかなか参加できなかったという88歳の野村さんも杖をつきつつ元気に出席。いつも通り句会は始まった。本日の兼題は「春風」、4句提出の5句選。清記、選句、披講のあと、一番の高得点句を講評し、あとは順番に点の入った句の講評に続く。
 

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▲明快な切れのある言葉で適切な指導をされる照屋眞理子さん

 
 
 
 
 
 
 
 
 
桃の花ほつたらかしの二男坊        幸雄
桃の花は女の子の節句。「ほったらかし」がどうたろう? と思ったが、桃の花と男の子の取り合わせがおもしろい。
照屋…主人が3人兄弟の二男。ほったらかされて育った人だなとわかる(笑)。桃の花という何ともいえないほわっとしたものを組み合わせて、二男坊に目を向けている作者の視線が好き。二男坊の作者はどなた?
作者…はい、私です。六男坊ですが(笑)。
 
明日は喰はるるあはれをチリと蜆鳴く           眞理子
蜆が鳴くかどうかはわからないが、明日の味噌汁には食べられる、蜆の命のあわれを詠んだところがいい/それを句またがりで上手につくられた。
照屋…これは上五が字余りなだけで、別段句またがりではない。電気を落として寝ようとしたときに、砂をはく蜆がチリと動く音が聞こえた。
 
春めくや介護のかなめ心技体           幸雄
介護には大変な力がいるので、心技体がいいと思った。
照屋…「介護のかなめ心技体」がキャッチフレーズみたい。「心技体」がするっと入るとその分すべる。あちこちで使われている言葉なので、もっと作者本人から湧き出る言葉を使いたい。
 
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▲最年長者88歳の野村さん(左)と今日の司会、黒一点の小林さん

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
道玄坂に多きスカジャン春風来       マサヱ
若者の街、渋谷。暖かくなりスカジャンを着た若者たちが、道玄坂にあふれてくる様子が感じられる/スカジャン? スタジャンじゃない? スカジャンは横須賀発祥のキンキラしたサテンのジャンパーのこと。
作者…スタジャンになおさせていただきます(笑)。
 
鷹鳩と化す香煙の慰霊堂※              千枝子
「鷹鳩と化す」という季語は初めてだが、東京大空襲に対する作者の思いが伝わるような気がした/ちょうど昨日父に頼まれて慰霊堂に行った。名簿は閲覧できるが内部には3月10日と9月1日の大法要の時しか中に入れない。
照屋…「鷹鳩と化す」は七十二候の一つで、陽気がよくて、鷹のような獰猛な鳥も鳩のように優しくなるという意味から3月16日~20日頃のこと。季語をかえた方がいい。
作者…御参りに行ったときも鳩がいっぱいいた。鳩は平和の象徴。昨日は寒かったが、暖かくなると、鳩は鷹になることを忘れてこんなふうにたむろしているのかなと。
東京都慰霊堂…墨田区横網町公園内にある慰霊施設。関東大震災の身元不明者の霊を祀る震災記念堂として創建。のちに東京大空襲の身元不明者の霊を合祀して1951年現在の姿に。
 
春風や転居通知の二三通                  幸雄
ありふれた光景だが、春らしくていい。
照屋…二三通という具体的な数ではなく、ちらほらと、くらいでいい。情報の量はなるべく少なく漠然とさせた方が、読者が想像を働かせることが出来る。
 
菜の花や「魁夷の道」をゆく如し    寿枝
東山魁夷の絵が大好き。菜の花に春の喜びを感じる作者の気持ちが伝わってくる。
照屋…「 」は何? かぎかっこをつけると何かあるのかなと思ってしまう。
作者…菜の花の風景が、魁夷の「道」の絵と同じような感じだった。
 
法隆寺
青丹よし西円堂の春の鐘                  恵美子
照屋…本当になにも言っていないが、ただ春の鐘に落ち着く静かさがいい。「青丹よし」があれば奈良だとわかるので、前書きの法隆寺はいらない。枕詞をうまく使うと余計な言葉を使わなくてすむ。
 
帆船の柄のスカーフ風光る              まり子
颯爽とした感じと風光るがいい。
照屋…なびいているスカーフが目に見えてくるような、春らしいいい句。ただ、それ以上ものすごくいいというわけではないけど(笑)。
 
春風と買ひにゆきたる今月号           史之
うきうきした雰囲気がでている。
照屋…だらだらとつながって切れがない。なぜか。「買ひにゆきたる」と連体形になっているから。「春風を連れ買ひにゆく今月号」でいい。実際そういう気分になったから「春風と」と言ったのだと思うが、事実はどうでもいい。形がいい方が俳句。
 
龍天に昇りゆく光すみれ色              眞理子
光を「かげ」と読み、すみれ色。勇ましさの中に優しさもあっていただいた/「かげ」と読ませたテクニックがよく、春のまばゆい光を感じた。
照屋…「すみれ色」が出てきたときはうれしかった。
 
受験子の首尾は弾んだ足取りに       千与子
今日の試験はよくできた。それが弾んだ足取りによく出ている。
照屋…首尾はいらない。
作者…先生にダメだって言われると思った! (笑)
 
子の巣立ち親にも親の一歩かな       恵美子
照屋…理屈っぽいが、子が育っていくときに親も一緒に成長していると。
作者…娘と離れて暮らして何十年。先日、行ってきたが気持ちのギャップの表しようがなく、親も少しずつ前に進まないといけないと感じた。
 
くわうこつと春の風食む麒麟かな    千枝子
春の風食む、とはなかなか言えない。こんな風に読めたらいいな。
照屋…前にも言ったが、漢語は使わないこと。「こうこつ」と、ひらがなにしても漢語。そういう時は漢字で「恍惚」と書き「うっとり」とかなをふる。それで目から入ってくる情報と、耳から入ってくる情報がきれいに落ち着く。辞書のなかで市民権を得ているかどうかは関係ない。辞書に載っている言葉は体制側の言葉。詩の言葉はアウトローでいい。そして、読み手は自分の基準に合わせて句を読むのではなく、この句はどう読まれたがっているか、句の方に自分が近づけば読める。
 
連合ひと老いの道草水温む              幸雄
「老い」が気になったが、いい夫婦の光景だなとひかれた。
照屋…人生の道草を味わえるなんてある年代になってから。いいと思う。
 
ふるさとに忘れものあり春の雲       史之
忘れ物ということはその人にとって必要かつ大切なもの。それが春の雲と響いている。
照屋…ふるさとじゃないところにあればいいのに。「青空に忘れ物あり」として季語を違うものにするとか。ふるさと~だと、ごく当たり前の発想で歌謡曲の一節になる。詩はもっと自由なもので日常的な連想、発想とは次元が違う。作者は今、句会に出られず指標もないままに作っているかもしれないが、そんなときはいったん作るのをやめ、いい句だけをたくさん読むといい。
そしてその句がどういう構成で自分はどこに魅かれたか、句に対する分析を徹底的にやってみる。もう一つは模倣。飽きるまで真似をすると飽きたあとに自分のものがでてくる。「春風」と言ったらパッと思い浮かぶイメージがあるわけで、それを自分の中でどう新しくつくりあげるかということ。まず個性なんて考えない。こねくり回して変なものをつくるより、言葉にそって素直につくる。やっぱり基礎練習。それがないと、よほどの天才以外、先にはいかない。
 
芙蓉
 
 
 
 
 
 
 
 
■ ほかの句
鶯の鳴音届くや雨あがる
俳句はこういうもの、という平均値でつくった感じ。これでは誰の句であってもよいことになる。この句では「や」があっても切れていない。鶯と出したら鳴音なんていらない。
春風やスマホに道を教へられ
これも何度も言ったが、連用形で止めるのは川柳の文体。「教えらる」または「春風やスマホに道を聞いてみる」。
防災のグッズに加へる春の色
「加える春の色」がいいが、防災のグッズが日常語。そういうものを準備しながらも、春は春らしい色のものが入る、それを詩として表現出来るといい。
春雨や入江奥まる貯木場
照屋…奥まったはあるが、奥まるはやや苦しい。春雨と貯木場の情景はいいので中七を工夫して。
作者…奥まるはおかしいと思いつつ、入江の奥のといったらこれもまた…。
照屋…入江の奥に貯木場があるという事実を見てしまうとそうなるが、見たものはいったん忘れてください。一度忘れて、その時に自分の中で一番大切なのは何かということだけを見て行けば、入江の奥とか、そんなことは関係ない。
 
 
2芙蓉
▲第2、第4金曜日、月2回開催の「はじめての俳句」教室

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
★「“俳句は紙と鉛筆があれば誰でも作れます”というフレーズに騙された」、「いつの間にか抜き差しならないことに」…などの感想も聞かれた「はじめての俳句」教室。近づいたと思うと、またはるか遠くに飛ばされるというジレンマに陥りながらも、一様に「俳句を始めると絶対に字は読めるようになる」「草花の名前も覚える」というメリットも口にされる。そして「少しでも、やった! とにんまりできる句が作れたらいい」と充実顔。
スタートをきる春。短歌も俳句も、そしてシャンソンも歌うマルチな指導者が、大きな瞳と懐で迎えてくださいます。はじめてみませんか、新しいこと。(木戸敦子)