川崎 游の会 講師 髙田正子様(神奈川県・川崎市)

 
川崎 游の会
講師 髙田正子様
(神奈川県・川崎市)
 
 5月14日、よみうりカルチャー川崎で開かれた髙田正子さんの句会「游の会」にお邪魔しました。開催日が振替になったため欠席投句もありましたが、10年選手あり、新人さんあり、句会初参加者ありとバラエティに富んだメンバーです。
 
資料として先月の句会報(添削例付き)と来月の兼題用に「季語を学ぼう 6月 夏の嫌われ動物②」が配布される。毎回髙田さんが作成するもので、②には蛇、蜥蜴、蝸牛、<RUBY CHAR=”蛞蝓”,”なめくじ”>…等にまつわる句を引きつつ、ユニークな私観も述べられている。今日は先月配布の「夏の嫌われ動物①」にあったごきぶり等を兼題に3句提出の5句選。選句後は、各人が選んだ句の感想を述べ髙田さんの講評へと続く。
※〇の句は髙田さん選
 

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▲「藍生」所属 髙田正子さん 第29回俳人協会新人賞、第3回星野立子賞受賞 俳人協会幹事

 
ごきぶりが出たと息子の夜の電話    和子
・嫌いなごきぶりが出たことを、息子さんが母に報告して微笑ましい。
髙田‥言いたいことが全部揃って入っているが、焦点を絞ったほうがいい。息子からきたところがおもしろいのか、そのあわてぶりなのか、リアルタイムの電話であるところなのか。ここぞというところに焦点を当てられるといい。「息子より」と前書きにするのも一法。対処の仕方を教えた頃にはごきぶりはもういないだろうし、そういうところを拾ってもおもしろい句になる。
 
若葉風手のひらいつぱい吸い込んで              小夜子
・手のひらいっぱい、ととても気持ちのいい句。
髙田‥手のひらいっぱいは、どのような意味にとった?
・こんな感じで(と、両手を広げる)。
髙田‥なるほど。皮膚感覚でもその風を吸いたいという感じね? じゃあ手だけとは限らない。手のひらいっぱいってどういうことかと思った。感覚的にはわかるしジャスチャーとしてはこうだけど、言葉通りにとろうとするとよくわからない。両腕とか両手とすれば、抱え込む感じになる。
 
部屋住みの蠅取り蜘蛛はピョンピョンと       緑子
蠅取り蜘蛛は、蠅捕蜘蛛または蠅虎とした方がいい。一塊で捉えられる表記に。
 
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▲鳥博士の一雄さん(左)と夕刊の隆運さん(右)

 
○ 夕刊の一面に死す油虫             隆運
・夕刊で油虫をバシッと捉えた。一面がいい。今なら舛添さんの顔とか? (笑)/朝刊だとつぶれすぎるから、夕刊ぐらいがちょうどいい。
髙田‥油虫は夕方から夜にかけて出てくるから、夕の字が効いている。一面はトップニュース、たかだか油虫の死が一面に載っちゃったみたいなおおげさな表現も楽しい。俳句は気真面目につくるのもいいし、美しいものを詠むのもいいが、滑稽味を追求していくのも重要。続けていくうちにそういう味もでてくる。
 
○長兵衛忠兵衛ききなして五月かな            一雄
・長兵衛、忠兵衛? 何のことかわからなかった。
髙田‥ 何? と思った方もいるようですね。これは鳥の鳴き声の聞き<RUBY CHAR=”倣”,”な”>しで、長兵衛忠兵衛はメジロの鳴き声。有名なところではホトトギスのテッペンカケタカやコジュケイのチョットコイ等がある。メジロは夏の季語で、囀り、いわゆるラブコールが高まってくるのが5月。さすが鳥に詳しい一雄さんの実感。
※聞き倣し…野鳥のさえずりを人の言葉に置き換えて覚えやすくしたもので、鳥声の翻訳とも。
 
蚊柱にほのかな明かり掲示板           利明
・掲示版を照らすための灯り、それが蚊柱にうつっている。
髙田‥灯りが及んでいる状況はわかるが、説明されている感じ。蚊柱そのものが発光しているように詠んでみては?
 
蚊を打つて祖母内職の手をとめず    圭子
・蚊を見もせずに打って、何事もなかったかのように淡々と仕事を続けるたくましい女性の姿を詠んでいる。
作者‥幼少期、祖母に預けられていたが、母とは違うタイプの人。小さい金具をパチンと切る単純な仕事だったが、網戸もない縁側でやっていた姿が印象に残っている。
髙田‥明治生まれのおばあさまですね。この一句をどうぞお供えしてください。
 
一声のあと矢継ぎ早時鳥            善平
髙田‥ことさらに新しいことを言っているわけではないが、余計なことを何も言っていない。あっ、ホトトギスだ! という一声があってそのあと矢継ぎ早に鳴いてくれたという喜びの句。
 
人の世の何ぞ映るや守宮の眼        隆運
・守宮の眼、という視点がおもしろいと思っていただいたが、守宮じゃなくともいいのでは? と今は思っている(笑)。
髙田‥守宮はしっかり爬虫類の顔をしているが、とても人気のある生き物。「何ぞ映るや」は「何映るらむ」とした方が響きがきれい。何が映っているのかな、という現在推量。
 
幼児の掌ほどの蛾におびえ              修
髙田‥大きな蛾には、誰もがギョッとするから「おびえ」はいらない。「をさなごのたなごころほど火取虫」だけで十分。
 
父の字や形見の備忘録に紙魚     明博
作者‥紙魚の句を読もうと実家に行ったら、紙魚じゃなくて父の字がでてきた。
髙田‥結構いろいろなことを言っているが、「紙魚」と名詞で止めたので饒舌感はなく切れ味がいい。
 
ジャングルジム登る子に来て夏の蝶              ハル子
・夏の蝶が登る子を応援してほほえましい。
髙田‥情景はわかるが説明になっている。AとBを取り合わせるとき因果関係をつけたくなるようだが、取り合わせは2つをそのまま置くだけでいい。そのあとに何が起きたかは読者に想像してもらえばいい。
 
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▲合同句集『游』只今第3号準備中

 
 
大粒の雫に撓む蜘蛛の糸    由美
髙田‥高原で朝散歩に出たようなすがすがしさを感じるきれいな句。「大粒」で「撓む」みたいなところがあるから、「一粒の雫」でよい。
 
天井の蜘蛛追出せず夜になり           光
髙田‥散文っぽい。「天井の蜘蛛追ひ出せずに夜に入りぬ」と完了形にすると、とうとうそのまま夜になっちゃった、という感じがでる。
 
いつまでも手を振る母や麦の秋  春
・バスの最後尾に座っている作者、母は見えなくなるまで手を振っている。
髙田‥「麦の秋」としたところが、春さんのお手柄。一面が麦秋の色に染まった景色を思う。その中で豆粒みたいになっても手を振る母。麦の秋の色あいが懐かしい。
 
愛と夢語らぬままの蚯蚓かな           圭子
髙田‥「愛と夢語つてくれぬ蚯蚓かな」ということかな?
 
毛虫這う裏一面やつばきの葉           逸子
髙田‥気持ち悪いものは思い切り気持ち悪く詠む(笑)。「つばきの葉裏一面に毛虫這ふ」。
 
手をつなぐ影の手つなぐ五月かな            ハル子
髙田‥手をつないだら影も手をつないだよ、という句。つなぐ、つなぐと畳みかけているのは嬉しいから。恋の句? ハル子さんの場合はお孫さんかな?
「手をつなぐ影も手つなぐ聖五月」と、「聖五月」はこういう時に使うといいかと思う。
 
夏近しくはへ煙草の店支度              柾子
・店主はランニングシャツを着た、でっぷりした坊主頭のおっちゃんのイメージ。ぶっきらぼうだが、仕事はしっかりしている感じがする。
髙田‥「咥へ煙草」と漢字を使った方が、一瞬でとらえられていい。
 
亀の背にふいと一匹金の蠅              光
髙田‥光さんは、独特のオノマトペをお使いの方。コントラストがおもしろい。「金色の蠅水槽の亀の背に」でもいい。
 
囚われの硝子戸のうち朝の蠅           和子
・朝カーテンを開ける時に騒いでいる様子が思われる/「囚われの」がおもしろい。
髙田‥意味を優先させるなら「硝子戸のうち囚われの朝の蠅」となる。
 
逆走の一匹の蟻すべり台    明博
・情景が想像できる/よく見ていらっしゃるなと思った。
髙田‥一瞬の「不思議な感じ」がいい。「すべり台一匹の蟻逆走す」や「一匹の蟻の逆走すべり台」と順番を入れ替えては?「逆走」といきなり入るより自然かも。
 
髙田正子3句
父母を継がず八十八夜寒
大切なものを遠くに明易し
火の国の罅から生まれ瑠璃蜥蜴
 
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▲当日は2名の方がお着物で歓待してくださいました!

 
★句会の最初から、くるくると一番動いていた方、それが髙田さん。毎回用意されるしっかりしたそれでいて少し茶目っ気のある楽しい資料は、集めたらすごい歳時記になりそうな保存版もの。兼題でなければ詠まないような季語も、ちゃんと学べるよう配慮されている。ちゃきちゃきと、時にはバッサリと小気味よく会を進め、それでいて親しみの持てる仕事人とお見受けした。メンバーの方が揃って口にしたのは「俳句をつくるのは大変だけど、楽しいから毎回参加するんです」の評。旺盛なサービス精神がなせる、楽しみながら学ぶ仕掛けが、この会には全方位的になされている。(木戸敦子)