『白金葭』5周年記念拡大句会
編集・代表 光成高志様 (千葉県・我孫子市)
6月30日、5月に出版した合同句集『白金葭』の出版記念祝賀会を兼ねた拡大句会が銀座「らん月」において開催されました。静岡の「彩俳句会」主宰の平野ひろしさんをゲストにお迎えし、11名の方々がランチとお酒とともに堪能した記念句会の模様です。
まずは平野さんのご挨拶より。
「俳句を始めて64年。ようやく俳句がわかってきたかなと思う。俳句にはやはり旗印が必要で、結局それは芭蕉に行きつく。”芭蕉の謂ひおほせて何かある”という言葉は、すべてを言い尽くしてはいけない、でもそこには”何か”がなくてはならないということ。何か。俳句は”詩”であるからまずは詩がなければ。俳句の一番のコツはしゃべらないこと。飯田龍太は”俳句は結論だけを言えばいい”と言っているが、余計なことは言わず、詩があるかどうか、選句もそれを基準に選ばせていただいた」
本日は5句提出の7句選。
以下、平野氏の特選1句、入選6句、予備選6句から講評スタートです。
◎特選
蠅取蜘蛛三面鏡を跳び回る みち
獲物を捕る蠅取蜘蛛はライオンのよう。それが三面鏡のところにいて、更にその驚きが3倍に拡大されている。そこがおもしろいところ。芭蕉は「新しみは俳諧の花なり」とも言っているが、柳の下のドジョウはせめて2匹くらいにして、従来の路線上にはない何らかの新味を出してほしい。伝統は推し進めないとすたれる。新しみは選句においてかなりのウエイトを占める。
○入選6句
消ゆるとき最も烟る蚊遣香 宏之助
盛んな時なら俳句にならない。「消ゆるとき」としたところが、俳句のコツを知っている人の句。
銀座にもなんじゃもんじゃの花のみち 陽一
誰も採っていないが「なんじゃもんじゃの花のみち」に、銀座にもあるんだという驚きと新鮮さを感じる。
夏燕一筆書きで空を切る 正美
これも誰も採らなかったが「一筆書きで」といったところに、夏燕のある瞬間の情景が見えてくる。
今日は今日明日は明日髪洗う 敦子
これは、尻をまくったところがいい。中村草田男の句“浮浪児昼寝す「なんでもいいやい知らねえやい」”という句に通じるところがある。
尺取が攀ず天平の円柱 宏之助
優等生的な句。昔も尺取はいたであろうが、天平と平成の時代においても尺取が攀じている。そこに一つの詩を見た。情景まで見えてくる。
メンバー‥円柱が※エンタシスとも取れ、ギリシャにも通じると思った/尺取を持ってきたところでまいったな、と。天平と尺取でウイットもあるし俳諧味がある/円柱ではなく、丸柱とすればエンタシスとは思わない。
※エンタシス…建築において、円柱の下部から上部にかけて、もしくは中部から上部にかけて徐々に細くした形状。古代ギリシャ発祥の建築方法で、法隆寺の柱にも用いられている。
⇒ 尺取が攀ず天平の丸柱
蛞蝓の隠るるレタス地に返す みち
農業の機微に関すること。実際に菜園をやっていないと、こういう句はなかなかできない。
□予備選6句
富士裾野瘤山幾つほとゝぎす 高志
砲弾を凌ぐ大きさ黒西瓜 高志
作者‥ 今は真っ黒い品種の西瓜がある。ここに来る前に三越デパートの地下で見たが7000円だった(笑)。
犬眠る玄関上の燕の子 みち
犬は眠っているが、犬がいるということで、燕の子も安心して眠っている。人の生活と共存しているような和やかさが感じられる。
パリー祭口紅赤き女学生 敦子
取り合わせのおもしろさ。
敷石も土蔵も白し蝉しぐれ 敬司
簡潔に作られているところがいい。蝉しぐれに対して、いかにも夏らしい季節感が出ている。
夏至暮れてまだ天上の藍の色 幸一
夏至は昼が一番長い季節。なかなか暮れずに天上には藍の色が残っている。これも季節感がいい。「天上の」ではなく「天上に」がいい。
他 互選高得点句
大樹海音なき滝を垂らしける 幸一
類形が多いから採らなかった。
作者‥いやぁ全く新しい句だと思ったんですけど(笑)。
沐浴の貴婦人のごと花海芋 興正
メンバー‥花海芋をもってきたところがすばらしい。エロスがあって文句なしにいただいた。貴婦人も効いている。
蝉が好き蝉啼く迄は存へず 陽一
「迄は」ではなく「迄を」の方がいい。
餡ぱんの臍がしんみり虎が雨 孝三
これはおもしろいと思ったが「しんみり」がねぇ。「虎が雨」は虎御前の涙雨だから言い過ぎ。もっと即物的に餡ぱんの臍の様子だけを言えばいい。例えば「餡ぱんの臍が黒々虎が雨」とか。
黒南風やかつて銀座に真砂女あり 興正
報告的な感じがする。「卯波」と真砂女の店の名前を言った方がいい。
⇒ 黒南風やかつて銀座に「卯波」あり
おしぼりを絞る銀座の残り梅雨 陽一
メンバー‥これも今の時期にぴったりだ。
他には…
水色の毬あぢさゐは蔭の花
最近のアジサイは品種改良されて豪華絢爛、蔭という感じはない。
メンバー‥昔はそうだったけど今は違う。感覚が古いよ、古すぎる(笑)。
大葭切電話線にて声を出す
それを見ない第三者にもわかる表現をしないと意味が通じない。
作者‥電話線の上で大声で鳴いている大葭切、電話線がいいと思って作った。これ今日一番力を入れたんですがダメですか(笑)。
⇒ 電話線掴み葭切声を出す
ベンツ乗る夏服の皺お洒落なり
高級車に乗っているのにしわしわの服、それがおしゃれということ? どちらかというと川柳のおもしろさ。
作者‥”お洒落なり”は言いたくなかった。
メンバー‥じゃあ入れなきゃいい(笑)。
⇒ 皺々の夏の服なりベンツ車に
青海波笙の響きよ夏神楽
メンバー‥青海波って模様のことでしょ?
よくわからなかった。
作者‥青海波は模様の意味もあるが、雅楽の舞のこと。
平野‥いずれにしても、青海波、笙、夏神楽と賑やかすぎる。
⇒ 始まりは青海波なり夏神楽
(お一人がタブレット端末で「青海波」を調べ、意味とともに皆さんに雅楽の音を聞かせてくださる)。
メンバー‥この音を聞けばもう一句できるね(笑)。
平野ひろしさんの5句
鶏小屋に振子の時計明易し
包丁の刃金のにほひ初鰹
水溜りすだまの如く水馬
若葉青葉溶岩のあばたは火の記憶
遺跡発掘土を噛んでは蟻走る
★合同句集といえど、通常の各人の俳句撰集のほか、吟行句撰集、兼題句撰集、ハガキ句報、芭蕉に関する評論29回分、エッセイ等と約250ページにも及ぶ5年間の集大成。日々の積み重ねの偉大さと、その熱意に圧倒される。これも文芸を好み、信じ、楽しむ、代表の光成さんのユニークで皆をその気にさせる主導があればこそ。帰り際、考三さんが言っていた「新しい句に巡り合えると、気持ちも若返った気がするんですよ」の言葉と平野さんが強調された「新しみ」。いろんな意味において心したい言葉でした。(木戸敦子)