NPO法人未来塾 楽しい俳句教室 指導 金子 敦 様(神奈川県・横浜市)

 
NPO法人未来塾 楽しい俳句教室
指導 金子 敦 様(神奈川県・横浜市)
 
9月18日(水)、横浜市・本郷台の「あーすプラザ」にて開催されている「NPO法人未来塾 楽しい俳句教室」にお邪魔しました。
 2011年7月の開講当初は1教室だったものの、好評につき現在は月曜と水曜の2教室に増え、本日は45回目。指導にあたる金子敦さんは、1985年に句作を始め97年の「砂糖壺」30句で俳壇賞を受賞した50代の俳人です。入会してまだ8ヶ月の方を筆頭に、ほとんどの方が初心者という当句会、さてどんな展開になるのでしょうか。
 

▲お優しいアッちゃんこと金子 敦さま

 
本日は、お2人欠席の14名の参加で、当季雑詠2句を提出。5句を選び、うち特選として選んだ1句を各人が講評します。また、金子さんが佳作、入選、特選の句を解説します。
 
台風過富士は容を整へり               林勝洋
金子…台風が過ぎ去ったあと、富士山が容を整えた、という着眼点がいいですね。台風が過ぎると空気が澄んで、何もかもくっきりとよく見えるということ。台風「過」が少し苦しいかな、ということで佳作にしました。
作者…「一過」にすると字余りになるので、「過」にすることで「過ぎ去った」という意味と「災い」の「過」の意味として、一方では台風が過ぎたのに、一方ではまだ台風の最中で大変、というその両方を言えるのではないかと思ったわけです。
 
▲俳句の省略について解説する金子さん

 
野良猫の一夜の宿と萩の花              河本眞由美
金子…芭蕉の句「一家に遊女も寝たり萩と月」を連想しましたが、この句は野良猫。ギャップがあっておもしろいですね。
作者…その句を知りませんでしたが、朝、ウォーキングをしていたら萩の下から野良猫が出てきて、あら、こんなところに寝ていたのね、と。
金子…猫の句といえば、河本さん。自分が好きなものを詠むことは、俳句の上達につながるのでとてもいいこと。猫の句だったら誰にも負けないわ、というくらいになってくださいね。
待ち合はせの刻とうに過ぎねこじやらし        篠田寿美子
選者…待ち合わせの時間が過ぎているのに、相手の人はちっとも現われてくれない。その少しさみしい気持ちと、「ねこじやらし」がほどほどに効いていていい/デートの句なんじゃない?(笑)
作者…「ねこじやらし」を使って句を作りたかったのです。先生は「俳人は嘘をついていい」とおっしゃったので、本当は待ち合わせをしたわけではないのです。
選者…言い訳をするところが余計あやしいね(笑)/あら独身なの? /いいえ(笑)。
 
▲月2回の俳句教室で着実に上達される受講生の皆さま

 
湯の街の和服姿や秋日傘               大貫孝男
金子…バシッと決まって句の形はとてもいいのですが、いかにも、という感じで佳作にしました。
太陽の秋のサインが届く今朝           坂巻玲子
金子…太陽の光が、まるでサインのように届いたということ。清々しさもあっていいと思います。
アルプスの月母と見し疎開の日     丸山和子
金子…中七が苦しいので、語順を変えて「疎開の日アルプスの月母と見し」にすると、すんなりと通り、情感のあるいい句になります。
作者…山梨に疎開したときのこと。手折った芒を飾り、アルプスの方角に上がった月を見ながら、母が私たちに「戦争で誰も死ななくてよかったね。これからきっといいことがあるよ」と言った言葉が忘れられない。母が一番苦しんだ時代で、自分に言い聞かせていたのだと今になるとわかるのですが、それをどう表現していいのやら…。
銀皿にパセリの残る星月夜            金子敦
選者…銀皿とパセリのコントラストが目に浮かぶ、きれいな情景。星が見える素敵なレストランで食べているのだろうなぁと想像させる。
金子…すばらしい鑑賞をありがとうございます。
稲架かけり農夫の背中夕焼けて       石川スギ
選者…とてもきれいな情景が詠まれているが、季重なりが気になった。
金子…夏の季語「夕焼けて」を、「夕映えて」にすれば、季重なりが避けられます。
作者…先生、ありがとうございます!
ひとり立つ小公園の秋深し             高橋虎彦
金子…「ひとり・小・秋深し」と、マイナスイメージを重ね過ぎてしまいましたが、 作者の感慨が切々と伝わってきますので、佳作にいただきました。
こほろぎのころころ声に風かろし               山下長生
金子…軽快な表現で、リズム感がとてもいい。
作者…カ行の音が多すぎるかと思ったのですが…。
金子…カ行の頭韻になっているので、それが逆にいい。なかなかここまで揃えるのは難しいですよ(笑)。
墓洗ふブラシで手紙書くやうに       長井直子
金子…特選を迷った作品。「手紙書くやうに」で、心の中で亡き人に手紙を書いているという情感が伝わってきました。
選者…亡き人を想い、ごしごしじゃなくて、大切に丁寧に墓を洗っている、その作者の優しさを感じる/「手紙書くやうに」で、自分も元気にやっているよ、ということを伝えている。
質問…先生、この句の季語は?
金子…「墓参」の傍題として「墓洗う」が季語。墓についた苔を掃除するという意味の「掃苔」も「墓洗う」と同じ意味の季語。「墓参」は秋の季語なので、春には使えません。
秋袷触れ合ふ人に折目あり              石田哲雄
金子…「折目あり」がうまい。テクニシャン。
選者…着物のたたんだ折目と、人の折目正しさ、2つの意味。なかなかこうは詠めない。
食すこといまだ無きまま通草の実               綿引明子
金子…やや説明的になってしまったのが残念ですが、 素直な詠みぶりで、とても好感が持てます。
干柿の廊下に影のすき間なく            中村彰克
金子…いいところを見ていますが「干し柿」と「影」を離さずに続けたいところ。「干し柿の廊下」では違和感があるので、「干し柿の影すき間なき廊下かな」ではどうでしょう。
選者…谷内六郎の絵を彷彿とさせるような、日本の原風景。軒下に干し柿がびっしりとある、という句はよくあるが「廊下に影のすき間なく」と詠んだところがうまい。
赤蜻蛉帽子に塔せて来たる人             林勝洋
金子…ユーモラスな句で、「塔せて」の字をもってきたところもユニークでいいですね。
選者…何がとまっても気にしない、といった飄々とした人柄と、蜻蛉も安心して止まっている様子が伝わってきます。
コスモスや一途な恋の風立ちぬ    佐々木道子
金子…上五中七までは、やや少女趣味的な雰囲気ですが、「風立ちぬ」という言葉によって、句が引き締まりました。
作者…これは宮崎駿の映画「風立ちぬ」を見ての句です。
華燭の宴エイトビートで始まりぬ               酒徳せつ子
金子…「華燭の宴」という、古式豊かな言葉に対して「エイトビート」。ミスマッチでおもしろいのですが、季語がないのが残念。
弦月や緩まぬやうに古紙結ぶ          長井直子
金子…弦月=三日月のこと。古紙、この場合は新聞かな?を緩まないように紐で結んでいるさまを、弓を張ったような月という意味の季語「弦月」をもってきたところがうまい。
雨やんで庭寂かなり十三夜             篠田寿美子
金子…十三夜の季語もピタリと決まった、とてもきれいな句で、文句なしの大丸。
◎特選 敬老の日やどら焼きの餡の嵩            岩本なを美
金子…「敬老の日」を、あえて明るく「どら焼きの餡の嵩」をもってきて表現したところがすばらしい。うれしいと言わずに「餡の嵩」という物で喜びを表現するところが俳句。めでたい句でもあり、今日の特選に選びました。
選者…敬老の日に立派などら焼きをもらった作者。たっぷりと入った餡にうれしさと、そんなに食べられるかしらという持てあまし気味の、両面が感じられる。みんなが、自分が元気で歳を重ねていることを喜んでくれているといううれしさが滲み出ていて、それを餡のかさ、と目をつけたところがうまいと思った。
 

 
★「先生を表現するにふさわしい “清廉潔白”という言葉を今日したためてきました」という受講生がいらっしゃる通り、指導にあたる金子さんは、お一人おひとりに対し親切丁寧な指導をされ、その誠実なお人柄を慕って遠方から教室に通う敦ちゃんファンも多いと聞きます。お笑い担当の方あり、学級委員的な方あり、親子で参加されている方や竹馬の友同士で参加されている方もありという、安心して学べるこの句会。愛情ある指導とそれに呼応する吸収力が噛み合って、ますます皆さんが腕を上げられることは想像に難くありません。(木戸敦子)
▲終わってからのお食事会では様々な話題が!