圓座京都吟行
主宰 武藤紀子様
(愛知県・名古屋市)
桃の節句の3月2~3日、「圓座」設立2周年の京都吟行に、東京都・国分寺市の支部「むさしの句会」の6名と同行させていただきました。
7:30東京発―京都行き新幹線ののっけから酒盛りが始まり、これが仕事でなければ…と思いつつ、半ば強制的な勧めもあり、いた仕方なく杯を受ける(笑)。京都駅で各地から参集した会員と数人ずつタクシーに分乗し、本日の宿「綿善旅館」に荷物を置き、その足で人形寺と称される「宝鏡寺」へと。人形の供養と京人形の振興を目的に建てられ、武者小路実篤の歌碑のある人形塚の出迎えを受け、風花舞うなか歩を進める。
皇室から下賜された人形、歴代の門跡ゆかりの寺宝の人形を見て回りながら、見たもの、感じた言葉を手帳に書き付ける面々。底冷えのする京都の寺を意外と早く切り上げ、腹が減っては戦はできぬとばかり、錦市場の「元蔵」で気炎を上げる様は句会前にもかかわらずプチ宴会状態。
その後、部屋に戻って早速歳時記と向かい合う方、京都御所へ行く方、はたまたまだ飲み続ける方と、午後からの句会に向け、それぞれのペースとスタンスで17音字に収れんさせていく。
15時からの句会は123句の中より3句選。「3句しか採れないのはきついなー」と皆さん、選ばれる気満々。
春雪の描き出したる大文字 ひかる
十二単衣どの一枚も春の色 小たか
雛の間や豆粒ほどの守り犬 康子
たび寝よし京に雛の客となり ちづるこ
早春らしい、先ほど見た光景が確かに句に仕上がっている。ここからは武藤主宰の選と講評へと続く。
貝は伊勢田螺は近江にぎやかに よしこ
錦市場に行ったのでしょう。はまぐり、シジミの貝類は伊勢、田螺は琵琶湖からきて店先に並んで光っている。「にぎやかに」が春らしくいきいきとしていい。
白梅や膨みながら緑なる わこ
京都御所に「青軸」といって、切ると緑色の枝をした梅があった。花は開くと白いが、何となく青色が残っており、そこを「膨らみながら緑なる」と詠ったところがよかった。
椿寿忌の狐日和となりにけり 直子
今日みたいに照ったり降ったりの日をさす「狐日和」。椿寿忌は虚子の忌で、時期はもう少しあとだが(4月8日)、虚子は人をだますようなところもあったようで、なおのこと狐日和がぴったり。
一礼して相席となる春の雪 もも子
どこがいいかわからない句だが、姿形がよく、句の中に含まれる心の有り様が正しく、品がある。特に何も言っていないのに品がある句はなかなか作れない。作った人に品があるから作れる。もも子さんの句ですか(拍手喝采)。
白雲の過ぎてほどける柳かな 喜久子
「奥の細道句抄絵」を描いた小野竹喬の絵のように、柳の枝の間に雲が動いている様子。今日は動いていなかったが、ちゃんと動くようにする、ここが腕(笑)。動くと柳の芽がほどけるような気がするという素敵な句。
偕老の雛の夕べと思ひをり 汀
夫婦が仲むつまじく添い遂げるという意味の「偕老同穴」の同穴を抜いてある。この偕老の「老」が、お雛様も皆さんみたいに歳をとった感じで、いいなと思っていただいた(笑)。
クレソンの水温みたる御苑かな 百榮
さらっと言っているがとても上手な句。目立った言葉を使わずに、水が温んできている御所を力まずに表現している正統派の俳句。
紅梅のまだ固ければ口噤む 歌子
今年の梅は遅いが、「口噤む」とはなかなか言えない。
百々御所は
みな去にてさぞやひひなのご退屈 汀
言い方がおもしろい。作った人に余裕を感じる。決して「選に入る句を作ろう」とは思っていない(笑)。
句会前には「木戸さん、俺の句採ってね。光ってるからすぐにわかるよ」と言っていた「むさしの句会」中川肇代表だったが、一日目はよりによって代表だけが選に入らず「未だかつてない快挙」と自虐的。引き続いて行われた懇親会では、各人の自己紹介やカラオケが行われ、中川代表は美声を披露し、その後部屋に戻ってからも男一+女三の麻雀で勝ち、本日の出遅れを巻き返していた。
翌、3日は9時前に旅館を後にし「今熊野観音寺」へ。ここは、平安時代の嵯峨天皇の勅願により弘法大師が開創した寺で、西国第十五番霊場でもある。隣り合う「泉涌寺」は東山三十六峯の一嶺、月輪山の麓にたたずむ寺で、皇室とゆかりがあり、御寺と呼ばれる。各々写真を撮ったり、しばし解説を読んだりと、与えられた時間を目いっぱい使いながら、思い思いの行動をとっている。
その収穫を携えての今日の句会は123句より5句選と、昨日より2句増。さぁ、その結果はいかに―。
ときに雨ときにうぐひす葬のみち かよ子
月輪の山懐に初音かな 喜久子
初音聞くみてらまゐりとなりしかな なおこ
北窓を開けて月輪山を見る 紀子
雄大な景色と季節の鳥、鶯の句などに点が集まる。そして、武藤主宰の選と講評へ。
白壁に錠のくろがね冴え返る 舞
「冴え返る」の入った句はいくつか出ていたが、これは白と黒の色の対比がはっきりとあり、いかにも寒そうな感じが伝わってくる。
泉涌寺亀は鳴くのをひかへをり 京子
泉涌寺は御寺という尊い寺なので、さすがの亀もうっかり鳴かずに、敬って声を控えているという様子がいい。
立子忌やいまだに父を超えられず 肇
中川さんですか、よかったですね、今日は(笑)。3月3日はもちろん雛祭だが、高濱虚子の次女で昭和の大俳人星野立子の忌日でもある。「立子忌や」で大きく切って、下は自分のことをいっている。私はこういう句に弱いので、上手に作ったなーと。
特選
過去現在未来つらつら椿かな 繭
過去から始まって大きく切れているという、おもしろい始まり方。時の流れを考えながら椿の花のことを言っているが、並んで数多く咲いている椿という意の「つらつら椿」がうまい。白玉椿では良さがでない。どなたも採らなかったですね。
先生にうぐひす鳴いてそれつきり 繭
これも、誰も採らなかったが、つらつら椿の星野さんの句。特選は、選者の特に好きな句だからそういうもの。いっぱい点が入ったら逆におかしい。「それつきり」の表現はよくあるが、「ほけきょ」などと一声鳴いてそれっきりで、その後の静寂観が聞こえてくる。一声でも初音が聞こえてよかった、という気持ちも表れている。
★その後は帰りの電車を気にしながら、全国各地の自分のフィールドへと戻っていく「圓座」メンバー。「むさしの句会」の東京組はもう一泊し、翌日に仁和寺や嵐山を巡るので、名残惜しいが木戸は京都駅でお別れ。
やんちゃ大将中川代表はじめ、個性的な女性陣とご一緒した時間。さっきまで飲んでいたかと思えば、句会になれば一心不乱に紙をめくり、選に入ればわぁーと歓声をあげ誇らしげに名乗ったりと実に刺激的。寒い京都で、五感で感じとったものを自分というフィルターを通し世界で一番短い詩として表出させる行為。その入り口から出口までの生産現場に立ち会えたこと、人と交わりながら、悔しがったり喜んだりしながら、結局は自分と真摯に向き合う姿に、改めて人間の愛おしさ感じた旅だった。 (木戸敦子)