中原道夫句碑建立10周年記念 とねりこ句会 銀化主宰 中原道夫 様(新潟県・新潟市)

 
中原道夫句碑建立10周年記念
とねりこ句会
銀化主宰 中原道夫様
(新潟県・新潟市)
 
10月23日、銀化主宰 中原道夫氏の句碑建立10周年記念とねりこ句会が、新潟市西蒲区巻町福井の旧庄屋佐藤家で開催されました。この佐藤家は約200年前に建てられた古民家で、隣の旧岩室村出身の中原氏がここで句会を開いたことを縁に、2006年9月に句碑が建立されました。
 当日は、県外から参加の11名を含む33名が参加、吟行句66句、当季雑詠は欠席投句を含め102句より選が行われました。
 

▲塩握りとたくあん漬け
中原主宰(左)と新井竜才同人

 
▲中原主宰直筆の句碑
「山獨活がいつぽん笊にあるけしき」

 
 
各人が受付と吟行、投句を済ませると、本戦に備え小昼が供される。コシヒカリ新米の塩握りと漬物。掛け値なしにおいしい。腹が落ち着いたところで記念句会のスタートだ。
当日は雨。中原主宰より「俳人にあいにくの天気はない。雨が降れば降ったなりに俳句をものすところが楽しい。来年銀化は20周年。合金はアマルガムというが、水と油は一見混ざってもまた分離する。それを混ぜるのは乳化剤、エマルジョン。20周年は詩と俳のエマルジョンをテーマにしようと考えている」とご挨拶。そして「10周年だから、大盤振る舞いで今日は景品に色紙10枚!」の声に歓声がわく。吟行句、当季雑詠から5句選。◎は主宰の特選。□は選評。
 
◆吟行句
のつぺい汁厨に赤子あやしつつ       日奈多
□のつぺい汁は漢字表記では濃餅汁。新潟だけのものと思いがちだが、根菜類が主の似たような汁は他の地方にもある。女房とは同郷だが、結婚したての頃はあれを入れる、これを入れるで夫婦げんかをしたものだ。冷たいものを食べる家、温かいものを食べる家も分かれるところ。
 

 
 
秋雨に句碑がどつしりあるけしき    周子
□これは、句碑「山獨活がいつぽん笊にあるけしき」のパロディ句。
◎出来秋を小ぶりに納め塩にぎり  達也
□「豊作」「豊の秋」に隠れがちだが、同じ意味の「出来秋」もなかなかいい季語。「ややつながり過ぎでは?」という質問も出そうだが、出来秋が豊年の言葉尻を逃れている。大ぶりだと出来秋を助長するから、わざと「小ぶりに納め」としたのでしょう。中七はまだ他に言葉が出てきそうな感じもする。あれ? でも、この句を出した時、まだ塩にぎり食べてないよね?
作者…台所で盗み見しました(笑)。
郁子の葉に音をのこして初しぐれ      蒼穹
□郁子の葉は分厚い肉のついた葉、音が残るということをうまくねらった。
人寄りて機嫌よろしき芋の露         誠一
□昔、畑であっちの芋の葉、こっちの芋の葉から露を集めて遊んだ。人寄りて、より「人寄せて」とした方がみんなを集めて遊ばせている感じがでておもしろい。
熟柿食ぶ賞味期限の埒外に           きみ子
□柿は英語でパーシモンだが「kaki」でも通じる。柿の好みもかなり分かれる。どこまでが賞味期限でどこからが賞味期限外か、その人の好き嫌いによってボーダーラインは決まるということ。
◎秋の炉に火をたつぷりと祝意なり     菜美
□今朝は涼しさを通り越して寒かった。温かい火がご馳走でもあり、火を奢るという感じ。それが祝意であると。
◎鳥声を振り掛けてゐし稲架木かな     未可
□雀や鴉が秋の陽と一緒に稲架木の上にとまっている。その声が、表に落ちたり裏に落ちたり、稲架木が振り分けてもいるということ。
◎茅葺きの傷みに滋養秋の雨        日奈多
□句碑開きの時は、茅葺の屋根も切り揃えられ、におうような新しさがあった。10年も経つと、ぺんぺん草が生えたり黴が生えたりと、なよっとした感じになるが、傷みにはいい秋雨だと。
◎早贄の仕上げに高き鵙の声            文里
□「鵙の早贄」とは、鵙の習性で、捕らえたバッタやカナヘビ等の小動物を枝にさして自分のテリトリーを誇示すること。高さによって翌年の雪の深さの指標になると言われているが俗信かどうか。木に刺して、最後に高い声で鳴いて違うところに飛び去ったという景。
◎刈田かな重責果したる矩形        美杜
□刈ったばかりの田は黄土色で、周りの畔の緑に縁どられて矩形がよく見える。しばらく経つと櫓田※になり緑色になるから、畔の形も判然としなくなる。刈り終えたばかりの矩形なのでしょう。田植えからずっと付き合って、重責を果たしやれやれという四角い形。
※櫓田…ひつじ(刈り取った後に再生する稲)の生え出た田
平成を笑ふ昭和の隙間風               亮太朗
□一見吟行句? と思ったかもしれない。ここ佐藤家は昭和どころか江戸時代の建物。往時の隙間風が吹き込んで、平成の人間どもをちょっと驚かせてやろう、という感じの「笑ふ」なんでしょうね。
 

 
 
朝霧や無雑の景を切取れり            痴龍
□朝霧がスクリーンのように閉ざして、夾雑な景を見せないように隠してしまったということ。
霜降や燕三条鉄曇              竜才
□今日10月23日は二十四節気の一つ霜降。東京からここに来るには、洋食器等で知られている金物の街「燕三条駅」で降りる。それを一ひねりして、鉛色の空、ドンピシャの挨拶句。
◎穭田に肥立ちの良否ありにけり     貞利
□稲刈りのあと、知らない人は青々とした田んぼを見て「また植えたんですか」と聞くが、あれは二番穂。生み終わった、つまり刈ったあと、何となく元気のない伸びていない肥立ちの悪い田んぼと肥立ちのいい田んぼがあるということ。
 
▲時価○円!?価値ある色紙を手にする皆様

 
 
◆当季雑詠
憎むごと榠樝の歪み切り分けり        淳男
□かりんとマルメロはおなじバラ科だが似て非なるもの。榠樝は非常に硬くて切るのに難渋することから、憎むという措辞がでた。
気がつけば熱の出てゐる曼殊沙華      則男
□曼殊沙華がかたまって咲くと、気づかなかったが、切磋琢磨して地熱を吸い上げて熱を発しているのではなかろうかというところ。じゃあ気づかなかったらどうするんだ、ということになる(笑)。「気がつけば」と同様に「振り向けば」も、上五によく使われるが、「気を付けて」使った方がいい。
◎鷹匠の招餌咥へて翻る              竜才
□鷹匠が持っている餌をめがけて若鷹が翻って戻り、よしよしという鷹と鷹匠の関係を詠み、特別なことを切り取っているわけではないが、映像がダイナミック。
雁鳴くや地図の折目の裂けゆきて      則男
□「雁鳴くや」ではなく、「雁の声」としっかり名詞で書き始めて、地図の折り目の裂けゆきて、の「ゆく」という言葉を「雁がゆく」にひっかけられないものかと考えていた。
◎蓑虫の風雅に遊ぶ人も無し        年樹
□悠々自適に枝からぶら下がってぶらぶらと遊ぶというのが風雅の極致。だが今は、蓑虫のような生活に浸るような人もおらず、どことなくみんなせちがらくなったということ。
人はみな自分史抱き鰯雲               亜真李
□壮大なスペクタクルなのかはわからないが、頭上には鰯雲、来し方を目で追っているのか。それぞれにそれぞれの自分史を抱いて、それがずっと先まで回り込んでいるよう。
◎人類の絶えし平穏鳥渡る            沙羅
□この世から人類がいなくなっても鳥には関係ない。むしろのうのうと渡っていくのではなかろうか、鳥の国ができそうである。
歴代を婆の手によるつるし柿        恵美子
□いまだに婆が健在なんですね。何でもする婆だと、たいてい何もしない子ができ、その何もしない母親の子は反面教師でいろいろと仕事をする。死んでから「つるし柿ってどうやって作るの?」とお隣りに聞きに行くと「あんた、婆さんから聞かなかったんけ」といった様子か。
蟷螂や研がぬ鎌より錆びてゆく       博夫
□「より」ではなく「から」の方がいいでしょう。使っていない鎌ほど錆びるのが早い、というニュアンスだともう少し書き方がかわってくる。
◎理髪店の鏡に話す運動会            寿一
□田舎だと運動会だなんていうと、散髪をしてきれいにしてから行ったり、店も7時頃から開いたりする。こちら側に店主がいて、いつものお客が「うちの孫が今日は徒競走に出るんだ」としゃべっている。こじんまりした村の理髪店、微笑ましい句。
◎羽根裏に夕焼隠し帰る朱鷺           みかん
□何も夕焼を隠し帰らなくてもいいのではないか。ケージの中に住んでいる朱鷺の染まった感じは、隠し持っているほうがいい。このままでももちろんいいが、隠し持っているから朱鷺はほの赤いとしたのだろう、その方がメルヘン。
 
▲会員の旦那様(杜フォート)撮影、家庭的でいい感じ!

 
★句会後は、集合写真を撮って祝賀会。地元の人が心を込めて作った土地の味はどれも優しく懐かしい。囲炉裏のある茅葺の家に見守られ、互いに詠い、承認しあい、杯を重ねながら馴染んでゆく。同人会長田口さんの祝辞「とねりこ句会のまとまりにはいつも感心している」の言葉どおり、雄大な自然の懐で会も句碑も育まれていく。 (木戸敦子)
 
▼中原主宰の手にかかるとこうなる