朝日カルチャーセンター 京都教室「俳句を楽しむ」 講師 田島 和生 様 (京都府・京都市)

朝日カルチャーセンター 京都教室「俳句を楽しむ」
講師 田島 和生 様(京都府・京都市)
 
 5月10日、新潟から3月に就航した「peach」に乗って上洛して参りました。うかがった先は、昨年12月に合同句集出版のお手伝いをさせていただいた「朝日カルチャーセンター京都教室」。「写生と即物具象」を根本に指導にあたられるのは俳誌「雉」主宰で「晨」同人の田島和生さん。21年にわたりこの教室を指導している田島さんの傘寿のお祝いにと、会員が自発的に役割を担い、何度も打ち合わせを重ね、完成したという合同句集『俳句樂々』。「俳句を楽しむ」という名の講座は、どんな句会となるのやら。
 
月2回の開催ということもあり、句会に先立ち次回の兼題はどうするか事前に講師の選んだ「椎の花」「栗の花」「柿の花」の中から多数決で選びます。途中、少し遅れて博さんが登場。どれがお好みか意見を伺うが「2票差なら、僕が柿の花言うても椎の花の勝ちやね」と、実に民主的な会。
次に、一冊の句集から講師が10句を抜き出して講評、その中で各人が好きな句を2句選び、それぞれの好みを比べます。今日の一冊は前田攝子句集『雨奇』。
続いて、前回決めた兼題「春昼」とその他雑詠2句(計3句)の中から各自好きな句を2つ選んで褒めます。これに対する講師のコメントと添削がこの句会の醍醐味。
 

▲常に笑顔で傘寿とは思えない若々しい田島さん

 
春昼やゆくりゆつたり宛名書き              市男
春の昼、ゆったりした気持ちで友だちに手紙を書いている。「ゆくりゆつたり」の表現がいい/気だるい春の昼にゆっくり宛名を書くのはぴったり。
田島…ゆくりとゆつたりは同じ言葉だから、ゆつたりを外して誰に対する手紙かを入れてもいい。
春昼や友へゆつくり宛名書く
 
対岸に風車高々春の昼    千香子
最初、日本の景色?と思った。風力発電の風車かも。
田島…その通りを写生した句。「対岸」を入れたことで川に映っている感じも出た。ただ風車なら高々は当たり前。動くとか回るとか、入れてみては。
対岸に風車の回り春の昼
 
猫ひざに母の独語や春の昼         ゆき
母親が猫をなでながらゆったり座って独り言をつぶやいている。いかにものんびりとした春の昼の光景。
田島…ええ雰囲気やね、幸せそうで。
猫抱いて母の独語や春の昼
 
家持の桃に執しし春の昼            類子
意味がわからなかった/桃は秋の季語、桃の花は春の季語やけど…。
田島…「ゴッホのひまわり」と一緒で、この場合「家持の桃」は季語にならない。大伴家持に「春の園紅にほふ桃の花下照る道に出で立つをとめ」という歌がある。春の昼に、いつまでもその歌が頭に残っている、というかなり高尚な句。
採ろうと思ったが「執しし」がひっかかった。元歌のテーマは決して桃が主題ではなく乙女だから。
家持の桃の花読み春の昼
 
▲一人27句と小文からなる合同句集『俳句樂々』

 
ここで突如、市男さんが教室の窓越しに見える景色を見ながら「類子先生、この空の色を群青色いうんですかね、いい色や」と、東山の背景に広がる暮れなずむ空の色を、絵の先生である類子さんに問う。確かに暮色がきれいだ。そして、この会、実に自由だ。
春昼の町駆け抜ける救急車        育子
良…ゆったりとした春の昼に、あれっという意外性。この句を選んでいたときにちょうど救急車が通り、サイレンの音がだんだん小さくなって…駆け抜けるってこのことか、と。
田島…良さん、最近句評が急にうまくなったね、どうしたん。気持ち悪いわ(笑)。
春昼の町へサイレン駆け抜ける
 
春昼の牧場に牛の群れ臥せり    修道
絵になっている、でも決まりすぎや(笑)。
田島…決して悪い句ではないが、群れ臥せりが今ひとつ。臥すはふつう病気の場合に使う。坐るとか、田舎っぽい表現だがねまる、もある。
群れ牛の牧場に坐り春の昼
 
春の昼黒髪ゆれて匂ひけり        博
田島…少女とかこういう句は、葵生さんが好きなんだわ、そしたら案の定採ってる(笑)。修道さんも青春性のある句好きやな、元気さの象徴だ。
作者…満員の地下鉄に女子高生が乗ってきて、髪振り乱して喋っとるんですな。汗とシャンプーの混じったなんともいえん匂い。青春時代を思い出してそれで黒髪ゆれて、と入れたんです。すんません(笑)。
春の昼黒髪濡れて匂ひけり
 
猫カフェの窓に三毛の手春の昼              陽一
猫嫌いなんですけどね、何となく/猫カフェってどんなん? /猫を触らせてくれて、猫好きは癒される。今はフクロウカフェもある。
田島…おもしろい句や、よう詠まれたな。ただ、三毛まで言わなくていい。
猫カフェの窓へ猫の手春の昼
 

 

 
●雑詠1
暁の谷に鶯の声高し       修道
田島…声高しまでいわなくていい。俳句は鶯や、でそこに鶯が鳴いているよ、ということになる。
「谷」はたに、と読んだ方がいい? 五七五の定型という考え方でいうと「や」になるのかと/鶯の鳴き方に「鶯の谷渡り」という言葉がある/そうすると「声高し」はいらんいうこと?/先生、この句は「あかつき」より「あかとき」と読んだ方がいいのでは?
田島…確かに「あかとき」でもいい。「へ」の方が動きが見える。
暁の谷へ鶯響きけり
 
帰り道青草結ひて作る罠            葵生
蚊帳吊草の一種や思いますが、懐かしい/ほんと、懐かしさに共鳴する。
田島…草を縛って、来た人をひっくり返すやつやな。「帰り道」が邪魔、説明っぽい。道だけでいい。
罠作る道の青草確と結ひ
 
入れ替り壁の巣急ぐ若燕            信男
若燕なんて季語あるんかな/若い燕という言葉がなあ、気になるなぁ(笑)/入れ替わって夫婦になった燕が巣をつくっているということ。
入れ替はり壁の巣づくりつばくらめ
 
道問へば牛もかほ出す豆の花      育子
ユーモアがあっていい。
田島…おもしろいが、類句がありそう。豆の花がいい。
道問へば牛の顔出す豆の花
 
凱旋門くぐりし目の隈にリラの花          類子
田島…目の隈ってなに?
目の端にっていう意味でしょう。
田島…そういう意味か。パリの旅行で疲れてできた目の隈かと。
そんな野暮ったいこというてまへん、リラの花やのに(笑)。ローマ軍が凱旋してきた、その時に馬上からチラッと見たらリラの花を挿した彼女がいた、そういう意味でしょ (笑)/凱旋門が背景の枠に見えるってこと。
田島…目の隈が気になった。
凱旋門くぐりて仰ぎリラの花
 
一心の混声響む聖五月    節子
田島…これまた力の入った句やな。一心が強すぎる。混声合唱が響いているだけでいい。
混声のホールに響み聖五月
 
青梅の笊に盛られて香りたる      良
田島…香りたる、だけでは平凡やからもう少し色気をつければ
青梅の笊に盛られてよく匂ふ
 
桜餅惚けし友の苞にせり            ゆき
田島…惚けてきた友だちの土産に桜餅を買ったということ? もう少しやわらかい表現に。
作者…私のことを思い出してほしいという願望もありつつ。
桜餅惚けし友へ提げゆけり
 
茄子苗もしし唐苗も花ひとつ   市男 
それぞれの苗に花が一つずつついているということ、音の調子がいい。
田島…「も」だと句が中だるみになるから「や」で切ってもいい。
茄子苗や獅子唐苗や花ひとつ
 
●雑詠2
夏隣川に鵜除けのロープ張り      信男
田島…養殖場みたいなところ? ロープを張って鵜よけをしているというおもしろい風景。
作者…これ鴨川の四条を下がったどんぐり橋の辺り。鮎の溜まり場にロープを張って鵜に取られないようにしてますよ。
雨の朝霧島つつじ満開へ            陽一
田島…信男さんと良さんが今度も一緒にこの句を選んだね。二人はどこか黒い糸か何かでつながってるのか気が合うね。
信男…ぼろぼろの糸や(笑)。霧島つつじはきれい、特に雨の長岡天満宮。10年くらい長岡京に住んでいたが、毎年見に行っていた。
田島…雨の朝より雨上がりの方がきれい。
満開の霧島つつじ雨上り
 
さざ波の煌めくダム湖夏近し      育子
田島…この句めちゃくちゃ沢山選ばれたね。これだけ選ばれたら文句言えないな、もう何も言いません(笑)。
さざ波のダム湖きらめき夏近し
 
遮断機の棹先揺るる薄暑かな      良
田島…よく詠まれている、薄暑という季語が効いている。
遮断機の棹先の揺れ薄暑かな
 
都路に散り積もりたる銀杏花      市男
田島…銀杏花より銀杏の花の方がいい。
都路や銀杏の花の散り積もる
作者…お恥ずかしい話、70歳を過ぎて初めて銀杏の花を知った。いつ咲いていつ実がなるんか不思議やったんですが、今年ほんまに都路に積もるほどの銀杏の花を見た。栗の花の短いのが京大の正門の東大路のところ一面にばーっと。それで何とかこれを俳句に残しておきたかった。先生の直された添削の句を、ぜひ私の句にさせていただきたいと思います(笑)。
 
▲お一人おひとりの色がはっきりとしたメンバーの皆さま

 
★「俳句を楽しむ」という講座名にたがわず、初心者からベテランまで、自身の思うところを忖度なく自由に、先生にもはっきりと発言なさる。京都ならではの言葉と地名が飛び交い、脱線も大いにあるこの会が21年も続いているのは、ひとえにおおらかでチャーミングな田島さんのお人柄と丁寧なご指導ゆえと見た。当日は句会のあと二次会、三次会とご一緒させていただいたが、皆さん、口々に「講座に出れば元気をもらえる」、「先生のこの講座が続く限り参加したい」と。相思相愛の実に気持ちのいい会だった。(木戸敦子)