塩谷 風月 様(大阪府・大阪府)

 

▲歌集を出したことで短歌が楽しくなったという塩谷風月様

 

昨年12月、2000年から昨年まで約19年の歌を『歌集 月は見ている』として出版した塩谷風月さんにお話をお聞きしました。

 

Q なぜ『歌集 月は見ている』を出版しようと?

歌集を出したいという漠然とした気持ちはずっとありました。一生に一冊でいいから、塩谷風月としての句点、あるいは読点を一度打ちたかった。でも、お金や体調、社会的な立ち位置の問題、何より自分の歌に自信がなくて、諦めていたのです。

しかしここ数年、今出さなければ永久に出せない、という根拠はないのですが、漠然とした焦燥感がありました。さらに、歌人仲間が、私家版でも安くて良い本を作っているのを知って、これなら自分にも手が届くかもしれない、と。そこで御社を紹介していただいて、今回のご縁に繋がりました。

 

Q 本を出されるまではどうでしたか?

難しかったのは、やはり選歌です。今まで三千首ほど溜めていたのですが、本のページ数に収まるように絞り込むことと、その構成を、たとえば編年体にするのかテーマごとに分けるのか。歌の良し悪しよりも、塩谷風月とはこういう歌人だったんだ、と思ってもらえるような本にしたいという気持ちがあって。どんな歌集が自分らしいのか。自分自身を見つめ直す怖さと向き合いました。半年ほどかけて選びましたが、しんどかったです。

 

Q しんどさと向き合った半年間だったのですね

短歌を作る最中も、自分の中の闇の部分とか痛みとか、割とまっすぐに剥き出しにしているので、結構しんどいんです。今回はワンクッションおいた一読者の目で自分の歌と向き合うことになったので、作っているときとは違うしんどさがありました。なんやこいつ、こんなにイタい奴なんかって(笑)。

 

Q 本を手にされた時は?

率直に感動しました。たぶん、子どもが生まれた時の次ぐらいにね。こんな良い本に作ってくださったんだ、という感謝の気持ちと、これが私自身の結晶なんだ、という感動。ちょっと泣きました(笑)。

 

▲「歌の美しさの奥に、言いようのないさみしさを感じる」黒瀬珂瀾氏の解説より

 

Q 今、夢中になっていること

夢中というわけではありませんが、短歌を作ることが楽しくなりました。これまで、かなりしんどい思いをして作ってきて、もうやめようかなと何度も思ったりして。それが、歌集を出したことで、変な言い方になりますが、ひとつ大きな肩の荷が下りたというか。

あと、歌集を読んでくれた周りの人たちに、思っていた何倍も受け入れてもらえた。自分の歌って薄くて下手だと悩んでいたのが、そうでもないよ、と少し楽になって。今一番楽しいのは、短歌を作ること、と素直に言えます。

 

Q すばらしい歌集の効能ですね(笑)

そうですね。もともと好奇心が強くて、いろんなところに首を突っ込んできました。今は体調の問題でなかなか行動できませんが、この好奇心だけは大切にしたいです。たとえば、家ではほとんどお酒を飲みませんが、酒場の雰囲気が好きで。そこに集まるお客さんにはサラリーマン、経営者、貿易商、外国航路の船乗り、水商売や風俗業など、実に様々な職種の人がいて。普段の生活ではまず出会えないような人達と腹を割って話ができる。世界が広がりました。

あと、僕自身もそうですが、酒場にひとりで来るお客さんは陽気に見えてもみんな何かしら孤独を抱えている。そういう精神的な機微も垣間見えて、とても良い人間観察の場でもあり、短歌の題材もたくさんいただきました。

 

Q これからは?

短歌を始めたばかりの頃、仲間を募って、自分を含めたいろんな人の朗読を集めたCDを作りました。今後は個人で朗読活動もやってみたいです。今、YouTube に朗読の動画をあげたり、やり方を模索しているところです。あと、元気になったら演劇もやってみたい。短歌のような言葉での表現とは対極にある、身体での表現にも好奇心があって。いっそ言葉を完全に封じた無言の劇とか、とても興味があります。

 

 『歌集 月は見ている』より

ああ、今だ。あなたの顔の色がすっと薄くなってきれいな怒り

大阪のほとんどが海だったころ四ツ橋通りを北へ行く鮫

漕ぎいでな。彼方に落ちる陽に向かい闇のはだえの水に濡れつつ

 

★時に胸を衝かれ、一時の軽みに安堵はするが、重低音のように哀しみが通底する。休詠期間もあったと聞くが、それでも月は見ている。月は歌なのであろうか。ぎりぎりのところで歌が主を支え、読む人の背中を押す、そんな一冊だ。(木戸敦子)

 

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(1冊1000円+税+送料)