中岡 昌太 様(神奈川県・横浜市)

中岡 昌太 様
(神奈川県・横浜市)
『中岡昌太 朱夏作品句評集』
 
去る3月6日、昨年11月に朱夏叢書第9篇として『中岡昌太 朱夏作品句評集』を出版した中岡昌太さんにお話をお聞きしました。

中岡様
▲「俳句は麻薬。難産なほど快感は増す」と笑う中岡さん

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
駅構内の喫茶店でお会いした中岡さん。手には「出がけにポストに入っていたので持ってきた」という、俳句四協会が編纂し2667句を収録した『東日本大震災を詠む』(3月6日発売)の分厚い一冊が。一緒に本を繰っていくと、もちろん中岡さんの俳句も収録されている。
 
Q.変わらずに俳句漬けの毎日ですか?
神奈川県現代俳句協会の句会や吟行会に研究会、「未来図」や「朱夏」の句会、それに他流試合で他の結社に顔を出したりと、毎日のように出ていたが、年齢とともに少なくなってきた。俳句の基本は吟行だが、散々ものを見てきたので、80歳を超え、今までの経験を活かして俳句を作ればいいかなと思っている。俳人の故三橋敏雄も、かつて「今からものを見たってしょうがない」と言っていたことも背中を押している。だから今は、どちらかというと机上派、言葉から入るようになった。日頃気になった言葉をメモしておいて、そこからイメージを広げ、過去の蓄積と言葉とが触発していく作り方をしている。
Q.この度の『中岡昌太 朱夏作品句評集』も?
前回、御社から出版した『梟のいる場所』は、「未来図」を中心に「未来図」以前を含めた作品を収めた句集で、「朱夏」の作品は含まれていない。昨年は「朱夏」の20周年記念の年で、酒井弘司主宰に勧められたこともあり、いい機会だと捉えた。句集も視野にあったが、「朱夏」同人として参加したのが47号から116号までなので、1号5句で単純に計算して345句しかない。少なくとも500句くらいから選句しないといい句集は生まれないと判断し、作品句評集という形をとった。
Q.評判もよく愛読者カードでの感想も多く寄せられました
ハンディな大きさで、持ち歩くのにちょうどいいとよく言われた(笑)。新書判の大きさや厚さは、詩人辻征夫の『貨物船句集』が、表紙の黒地に白文字は、芸林書房の『齋藤慎爾句集』が念頭にあった。本書に「好きな句を3句選んでください」というアンケートをつけたが、一番票の多かった句は「いきいきと水のでてゆく春の山」。わかりやすい句なのだと思うが、自分としては「飛花落花だれから先に風になる」や「哀しみのよくみえてくるカシオペア」のような心象句を作りたい。俳句は作り手と読み手の合作。読み手にゆだねればいいことだから、ある程度の飛躍があった方がいろいろな読み方ができ、拡がりがでる。575で句ができても、決まり切った解釈をされるのではないかと思うと、もうひとひねり加える。
Q.時間をかけるのですね
ええ、推敲派。句はパソコンに入力するので、まず検索して類想類句を排除し、それから言葉を付け足したり、並べ替えたり。出たとこ勝負ではなく、とことん手直しをする。「未来図」の支部や地域のサークルで指導をしているので、毎月80句位にコメントを書いて送る、といった添削も何年とやっている。贈ってくださる句集は全部目を通し、A4で3~5枚の感想を書かないと気が済まない(笑)。
Q.ご自身のこれからは?
年齢相応の句を作ればいいという意見もあるが、酒井主宰は「老いという言葉はきらい。絶対に年とった句は作りたくない」とおっしゃる。私も考え直して「老い」という言葉を使わず、安住することなく、常に新鮮さを保ちたいと思っている。だから若い人の句集を読むのは楽しみのひとつ。
あとは、作家論、評論を書きたい。以前、西東三鬼や寺山修司と中村草田男の関係を書いたが、作品としてはおもしろいが評論になっていない、とのコメントをいただいた。具体的には、ほとんど知られていないと思うが、高柳重信の弟子で1990年に55歳で亡くなった新聞記者、折笠美秋について書きたいと思っている。
そのためにはまず健康第一。今、週2回トレーニングに行って2時間は鍛えている。長いことヨガや健康体操の指導員をしていた女房も一緒に行くと「そんなやり方じゃ効果ないわよ!」と、うるさくてね(笑)。
 
『中岡昌太 朱夏作品句評集』より
 
中岡昌太さんの俳句には、どこか土俗的な匂いがする。それは故郷、秋田県の地霊か。
ぶれず、自らの立ち位置から地球を眺望している。  ―酒井弘司
 
ぎこぎこと人は働き雁渡る
風舐めるキリンの舌よ春を待つ
雲のなきことの不安よ被爆の日
HP004
▲「作品一覧」付きなのも親切な配慮。小さいが重みのある一冊

 
★8年前、お話をお聞きした際に「師も大事、連衆も大事だが、俳句は自分に始まり自分に終るもの。これからもこの言葉の意味を追求し続けます」と語っていた中岡さん。自然の中で育まれた感性と本来の地頭を元手にたゆまぬ努力を重ね、今がある。時に振り返ることはあっても、止まってはいけない、ということを中岡さんの今のありようが語っていた。(木戸敦子)