菜の花句会
(新潟市・東区)
地元、新潟市は東区の石山地区公民館で行われている「菜の花句会」は、9年前、公民館主催の「俳句道場」の受講者が母体となってできた会。指導にあたるのは、永年新潟大学で植物病理学を教えておられた小島岳青さん。「いつでも気軽にのぞいてみてください」の一言で、11月18日、会社から車で20分、ふらりとお邪魔してきました。
兼題や席題はなく、当季雑詠7句投句の7句選、うち一句を天に選びます(小島さんは10句選)。約2週間前に新潟の県北、奥胎内や瀬波に一泊の吟行をされたということで、その際に作った句をさらに磨きあげた句も出されていました。
清記した紙を回し、選句、そしてみなさんが天として選んだ句を講評します。
梟から朝を引き継ぐ古墳守 渡
サラリーマンをしていた頃は、転勤で1日、2日で仕事の引き継ぎがあった。夜が明けて、前任者の梟から朝を引き継ぐ、という表現が非常に気に入った。
神在の出雲の国の縄のれん 岳青
神様と一杯やって、さぞやいい旅であったろうと(笑)。
岳青…全国の神様が集まる出雲に、越後の田舎者の神様も出かけたがどこへ行っていいかわからず、縄のれんをくぐったというふざけた句。
天高し歩荷のたましひ尾瀬背負ふ 伸一
岳青…オーバーな表現にも思えるが、何十キロと背負って歩く歩荷の姿は尾瀬そのものを背負っていると表現する、山男の伸一さんならではの句。「たましひ」は評価が別れるところ。
伸一…先日、歩荷を取り上げたテレビ番組を見たが、あの歩荷がいなければ尾瀬を訪ねる人の胃袋も満たすことはできない。歩荷の魂というか、使命感を見る想いがした。
※歩荷(ぽっか)=山のような体力的または地勢的な難所において、人が背中に荷物を背負って徒歩で運搬すること。また、それを生業とする人。《季語 夏》
石蕗活ける母在れば今日百歳に 悠子
岳青…母ものに弱い私は、必ずこういう句は採るわけでー(笑)。花が薔薇だと話にならないが、「石蕗」としたことで、今時分のひんやりと、しかも凛とした黄色が母のおもかげに重なる。母に対する愛情、思いやりの気持ちがいっぱいつまった句。石蕗が活きている。
蔓ひけば零余子こぼるるひとかたけ 紀久子
岳青…所作は非常に簡単で、たぐった蔓から取れたむかごが、一片食分。「ひとかたけ」が言い得て妙。ほんのわずかなむかごが採れた、それで満足したという秋の句。
冬落暉瀬波を納め佐渡納め 渡
瀬波に泊まりそっくり同じ経験をしたことがあるので懐かしくていただいた。
岳青…この前の吟行句を渡さんは一晩考えて直したのをみんな知っているから誰も採らなかった。やりましたね、渡さん(笑)。
選者…私、吟行に行かなかったから新鮮にうつっちゃった。
渡…先生、あのとき推敲して出し直していいって言ったじゃないですか(笑)。
憂きことの一つや二つ小鳥来る わこ
岳青…誰にでも憂きことの一つや二つはあるが、句にしようとするとなかなか容易ではない。季語に何をもってくるか、いかにも秋の庭の小鳥と合っている。大したことを言っているわけではないが、シンプルで分量がいい塩梅。
波郷忌や切字のごとき霜柱 岳青
波郷に詳しいわけではないが、「切字のごとき霜柱」のフレーズがとてもいい。
天空の「く」の字ほどけて鳥渡る わこ
新津の秋葉公園の方に行くと、よく空に白鳥が飛んでいるが、まさにくの字になったり、ほどけたり、またくの字になったりという情景を見る。
彩りを容赦もなしに時雨けり 伸一
岳青…先日の吟行の2日目は、前日のあれだけの紅葉が一気に散ってしまった。その時のことと重ねて読ませていただいた。
文化の日居酒屋兆治のドラマ観る 春雪
岳青…誰も採っていないが、のんべえはこういう句がすぐ目につく。もう少し何とかならんかな、という感じもするが(笑)。文化の日というと、格調高いことを言いたがるが、居酒屋兆治のドラマを見ているという、おかしみがある。
春雪…主人公が文化勲章を貰ったので。
岳青…文化だからって、いいってもんでもないでしょ(笑)。
深空なる林檎の紅と握手せり 渡
岳青…山の雪と真っ赤なりんご。深空で美しさが増幅されたその情景を「紅と握手せり」とはうまい表現。りんごとの愛情交感、コミュニケーションを感じる。信州のりんごを思って採った。
寝嵩なき母の寝息や神の留守 典子
お母さんの安らかな寝息と、神の留守がうまく合致して静謐な様子を醸し出している。
亡き人の癖字の日記菊人形 綾子
短冊が回ってきたとき、すぐに特選にしようと思った。菊人形が効いて綾子さんの実感がこもっていて、涙が出そうだった。
岳青…誠に心打たれる、文句なしの特選。俳句の形も整っていて、こういう俳句をきちんと亡き人に届けるという、その確たる自信。癖字がとてもいいし、菊人形で救われている。これ以上しんどい季語だと参っちゃう。今日は、久しぶりに句会にお出掛けいただいて本当によかった。
綾子…3年日記だから、以前書いたものも見える。一昨年には菊人形を見に行っていたんだな、と。
他、共鳴句
少年の顔もて受くる零余子かな 羊子
濁り酒封切る家へ帰りけり 紀久子
この舌はまだ衰えず新走り 渡
錦秋の風の中から歩荷来る 春雪
抱くよにつき離すよに鳥渡る 美季
寒き朝新聞受に有難う 辰之
秋色を落暉に託し油壺 佐貴
★難しい言葉を使わず、すーっと心にしみる俳句だなぁと感じるのは、同じ土地で生活している故でしょうか。皆さん何食わぬ顔で淡々と進めておられましたが、短時間の間に手も頭も口もフル稼働。鍛えられているのですね。そして、生老病死、どのような渦中にあっても、またここに戻ってくる、来たいと思わせる場であり、それを支える俳句の力を感じた新潟らしい実直で飾らない方々の集まりでした。(木戸敦子)