今年3月、最近3年間の273句を『句集 踝』として上梓した、近澤有孝様にお話をお聞きしました。
Q 『句集 踝』を出版しようと思った経緯
実は、是が非でも句集を出したいというわけではなかったんです。
高校時代から現代詩を書いていて、俳句は詩の表現を削る鍛錬にと思って、10年ほど前から少しずつ無手勝流に詠んでいました。
安東次男の句風を継承している俳誌「篠」に参加させていただいたのが、3年ほど前のことです。
句集を出そうと思いはじめたのは、7歳下の妹が突然他界した、一昨年の暮れのころだったと思います。
それまで詩で書いてきていた死とはまったく違った威圧感をともなって《死》と《ことば》が、ぼくにかぶさってきたわけです。
そういう意味で『句集 踝』は、妹の追悼句集であると同時に、亡き妹によって救済された、ぼく自身の漂泊の書と言えるかもしれません。
Q 亡き妹さんによって救済されたというのは?
うまく言えないのですが、妹の死によって、ぼく自身のことばを取りもどすことができたような気がするんです。
当初は悲嘆にくれ、ぽっかりと胸に穴があいたような感じだったのですが、それが時間とともに、ぼくに「お兄ちゃんは生きんといかんがぜよ」(高知出身なので土佐弁です)って、妹から言われているような気がしてきたんです。
「ああ、いままでどおりでいいんだ」って思いましたね。妹が、ぼくの作品の一番の理解者でしたから。
Q 本の出版は初めてでしたか?
詩集はこれまでに4冊上梓していますが、句集ははじめてのことで、最初はかなり考えこんでいました。
選句、構成など、知らないことばかりでした。
それで「篠」主宰・辻村麻乃氏に相談をして、おおまかな形を整えていただきました。
おまけに、真心のこもった帯文まで書いていただき、感謝のことばもありません。
それから《旧かな表記》も、ぼくはまったくわからなかったのですが、これは喜怒哀楽書房さんが句集・歌集を得意とする出版社ということで、安心してお願いできました。
Q 本を手にされた時は?
まずは、ほっとしましたね。妹を弔うという意味でも、俳句というかたちで自分のことばを残せたという意味でも。本の出来は、すばらしいものだと思いました。表紙も本文の紙もしっとりとしていてよかったですし、表紙のデザインも素晴らしく、《とても美しい》という感想も寄せられています。ぼくのややこしい注文に真摯に対応してくださった喜怒哀楽書房のスタッフの皆さんに、あらためてお礼を言いたいですね。
Q どのような感想や反響がありましたか?
ぼくが所属している「篠」誌の同人の方を中心に、いろいろな感想やご意見を寄せていただきました。
発想がユニークとか、一生懸命に生きているようですねとか言っていただき、ほっとしました。あと、《身体性》のある句という評もいただいたのですが、これは、ぼく自身、意識していたことでもあったので、とても嬉しかったです。
Q 身体を通しての表現ということですか?
そうですね。ぼくは生まれつき、スタージ・ウエーバー症候群という病気を患っています。
顔のあざ、左半身のまひ、てんかん発作と、ずいぶんしんどい思いをしてきているため、どうしても自分の肉体をとおして得た感覚でないと信じられなくなっているのかもしれません。
だからぼく自身の句の評価の基準は、傲慢かもしれませんが、美しい句というより、自分の感じた世界を詠みこめているかどうか、ということになってしまうんですよね。
Q これからは…?
先のことはあまり考えないようにしていますが、たぶん、これまでと同じように詩を書き、俳句を詠んでいるだろうと思います。
気負わず、のんびりと、頑迷に、あるがままのさまをことばにしていけたらいいな、と思っています。
『句集 踝』より
あたたかや雨のはぜるも雨の香も
てつせんや云はずもがなの蔓を巻き
妹のフレアスカート金魚玉
菊摘むはあはれ菊摘むをやめ
焚火するたびにどこかが寒くなり
★ホームページより当社を見つけてくださりご縁のあった広島の近澤様。最初のメールやお電話口での受け答えから既に、当方を気遣ってくださる優しさを感じました。亡き妹さんも、その時々の近澤さんだけの「ことば」に天国で耳を澄ませていることでしょう。(木戸敦子)
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